南風之宮にて 2-11
だが、彼らは本当は、エイに行って欲しいと望んでいた。
兄妹の葛藤は傍目にも明らかだった。
二人にはわかっていたのだ。
今現在手元にある材料で最善を尽くさねばならないならば、立場がどうであれ、エイがその“最善”だった。
ハヅルを損なうことなく結界の外に送り届けられ、彼女が飛び立ったのちにも生き延びる可能性が最も高い者。
王女の親衛隊も精鋭揃いではあったが、エイには遠く及ばない。彼らが何人いてもハヅルの足手まといにしかならないだろう。
そして、人数を増やすだけ捕捉されやすくもなる。
また逆にエイが一人どれほど強くとも、八方からの襲撃全てに対応しきれるわけではない。
諸々考慮しても、親衛隊を全て守りに、囲みの一点を突破する役にエイを配置するのが最適だった。
エイは兄妹に対して、遠慮がちに応えた。
「立場なんて。危険なのはここにいる全員同じですし……それに、あなたとアハトは、そんな立場じゃないのに僕を助けてくれました」
後半を、彼は王子をまっすぐ見ながら口にした。
「僕は少し剣を扱えるだけの人間で、普段そばにいたってあなたの役には立てません。少しでも力になれるなら、こんなにうれしいことはないんです」
小さな、だが決意のこもった声だった。彼は一呼吸置いて、こう続けた。
「親友、ですから」
王子は目を瞠って、彼の言葉を聞いていた。
「お前ほど頼りになる親友はいない。エイ」
しみじみとした口調でそう言って、王子は彼の肩に手を置いた。
エイは照れたように、少し顔を赤くして笑った。
妙にうれしそうなエイに対して、王子が複雑な表情になったことにハヅルは気付いていた。
本当は、王子はこういう場面で自ら打って出たがる性格なのだ。
また、エイは親友で、ハヅルもまた王家にとって貴重な一族の娘だ。どちらもいたずらに危険にさらしたくはあるまい。
それも自分たちのために、危険のただ中に飛び込んでゆくなど、彼の気性では認められることではなかった。
だがこの場でわがままを口にするほどもののわからない人物でもなかった。
まして妹姫の安全もかかった場面だ。
他者を信じ頼ることも、王に必要な資質だと、彼はちゃんと承知していた。
「そうだ。お前なら、うまくやってくれると信じられる」
胸の内の葛藤がひと段落ついたのだろう。
王子はにっと口の端を持ち上げ、彼独特の不敵な笑みを浮かべた。