骨が診える傷-1
痛い!!痛い、痛い…
何故こんな事になったんだ。俺の手がじんじんして感覚が上手く伝わらない。
俺たちは普通の恋人同士だった…
俺は、愛しているんだ。彼女を…彼女の全てを…
笑うと右頬にだけできるえくぼだとか
驚いたらちょっと垂れた二重の目を丸くさせる処とか
怒るとふっくらした下唇をぎゅっと噛みしめるとか
泣いたら小さな耳まで真っ赤になるだとか
嘘をつくときは品のいい鼻がピクリとするとか
困った時に肩までかかる髪を器用にくるくる回すとか
本当に愛しくて、かわいいんだ。好きで、本当に好きで、たまらない。
ご飯を食べるときに髪を耳にかける仕草
街を歩くとき俺の袖先をぎゅっと握る姿
音をはずしてるのに体を揺らしながら必死に歌う姿
俺のつまらない冗談でお腹を抱えて笑う姿
俺が買ってきたミニスカートを恥ずかしそうにはく姿
澄んだ瞳
少し舌ったらずな喋り方
右の首筋にあるほくろ
日焼けすると赤くなる肌
そんな彼女の…彼女の口から聞きたくなかった。別れ話なんか!!聞きたくなかった他の男の名前なんて!!
今俺の目の前にいる彼女、俺はそっと抱き上げた。彼女の暖かさが伝わらないのは、やはり俺の手がおかしいのだろうか?
彼女の細い首にはくっきりと俺の手の後が残っている。
「うわおおおおぉぉ……」
俺の声がしっかりと俺と彼女を包み、今までうるさいくらい響いていた蝉の声をかき消した。
再び蝉の声が響き始めた後、相変わらず感覚の伝わらない手にカッターとペンチを持ち、彼女の歯を丁寧に抜き取った。その歯を彼女がいつも使っていた薬ケースに入れ、ズボンのポケットに押し込んだ。