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満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)
【ファンタジー 官能小説】

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幸運の娘(注意、性描写あり)-1

 二週間たつ頃には、ラヴィの傷は殆ど癒え、外出許可も出た。
 事件後、初めての外出は、盛大に行われたソフィアの帰国祝いパレードの見物だ。
 秋の高い空は、吸い込まれそうなほどの青一色で、そこへイスパニラの赤い国旗と、シシリーナの黄色い国旗が翻っている。
 垂れ幕や紙ふぶきや旗など、考え付くかぎりの飾り付けが施され、楽団の演奏に合わせて踊り子達が華麗に舞い踊る。
 圧巻としかいいようのない、素晴らしい祝いだったし、ラヴィも心からお祝いできた。
 それが一番重要だ。

 ザックリ切られた前髪は、アイリーンが器用に整えてくれたが、かなり短くなった。そこで、頬の爪痕を隠すのに、もっと良い手段が選ばれた。
 ルーディが特製の白粉を調合してくれ、頬の爪痕は綺麗に覆い隠されたのだ。

「おーい、ルーディ!」

 道端の屋台から、祝い酒を片手に出てきた男が、声をかけてきた。あの靴屋の店主だった。

「あれ?今日は店閉まい?」
「あったりめぇよぉ。この祭り用に靴の注文がわんさか来てて、昨日まで大忙しだったんだ。稼いだ金で、今日は人生を楽しまなきゃな」

 すでにかなり飲んでいるらしく、顔が赤くなっていたが、ふとラヴィの足元を見て目を丸くした。
 顔をしかめ、ルーディを肘でつっつく。

「なぁルーディ。他人の色恋沙汰に口出ししたかねーが、靴まで新しい彼女にやっちまうなんて、いくらなんでも……」
「新しい彼女?」
「俺ぁいくら酔ってても、てめぇの作った靴は忘れねーぞ。あの靴は、店に一緒に来た子のために作ったもんだろーが」
「ああ」

 やっと意味がわかったルーディが苦笑して頭をかく。
 ラヴィもクスクス笑い、今はアクセサリーとして横の髪を小さく飾っているリボンを見せた。

「お久しぶりです」
「へ?」

 唖然とした顔で、店主はルーディとラヴィを見比べる。

「あ、アンタ……」
「はい。前髪を切ったんです」
「は……こりゃなんつーか、変わったもんだ。けど、こっちのが断然良いよ、お嬢ちゃん。ハハ!!」

 大笑いしながら、店主は千鳥足で去っていった。
 あの店主も、実は小国の諜報員だというから驚きだ。
 以前、王宮に忍び込んで掴まりそうになったのをルーディが助け、それから互いに、裏表で両方の付き合いがあるらしい。

 この王都には、大陸中の国から諜報員が差し向けられているそうだ。
 どの国も一早い情報を求め、イスパニラという凶暴な獣から身を守るために必死で知恵を振り絞る。
 奇麗事なんか言っている暇はない。生きるため、自分と愛する者を守るために、死に物狂いで足掻いている。
 その熱意がラヴィは好きだ。
 ぼんやりと虚ろに生きていた昔より、今ならもっとはっきり感じられる。
 大事な人と自分を守り、明日も笑って生き抜きたい。

「ルーディ、本当にありがとう」

 重苦しい前髪が短くなったら、世界が綺麗に見えるようになったばかりか、心まで軽くなったようだった。
 しかし白粉より前髪より、本当にラヴィを変えてくれたのは、ルーディの存在だ。

「どういたしまして。これでも一応、錬金術師ですから」

 ルーディが胸を張り、ラヴィは噴出す。

「でもさ……こう言ったら、ラヴィは怒るかもしれないけど、俺はその傷に感謝したいくらいだ」
「どうして?こんな醜い傷なんか……」

 ルーディは肩をすくめた。

「ラヴィが三軒隣の店に並べられてなくて、本当に良かったよ」

 ラヴィは顔を赤くする。
 なんて幸せなんだろう。


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