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満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)
【ファンタジー 官能小説】

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幸運の娘(注意、性描写あり)-2

 賑やかなお祭りからの帰りで、浮ついた気分のままだった。
 それで、曲がり角の向こうから聞える声が、なんだか聞き覚えのあるものなのに気がつかなかった。

「奥様、どうか穏便にお願いいたします」
「だまらっしゃい!だいたい、奴隷市場で生娘を買う男なぞ……」

 ルーディの家の前で、日傘をさした老婦人が呼び鈴を鳴らしまくっており、執事らしい年配の男が必死に止めている。
 老婦人は、お団子にしてまとめた白髪に、小さなレースの帽子をチョコンと乗っけて、古風なドレスを身にまとっていた。
 七十を過ぎても背筋をシャンと伸ばし、何があっても淑女たれ。をモットーにしていた老婦人が、一度も見たことが無いほど興奮している。

「――――――おば様……」

 もう二度と会えないと思っていた老婦人の姿を目にし、信じられない想いでラヴィは呟く。
 バーグレイ商会のつてで、田舎の屋敷に連絡してもらってはいたが、焼け落ちていたと聞き、落胆していたのだ。
 思わずあげた声に、老婦人と執事は振り向いたが、一瞬キョトンとした顔になった。
 それもそうだろう。前髪はすっかり短くなり、頬の爪痕は白粉で隠れているんだから!

「フラヴィアーナ!?」

 老婦人が、日傘を放り出して駆け寄ってきた。

「貴女がどんな目にあったか聞いて、散々探しましたよ!この男に買われたのね!?」

 抱きしめられ、混乱しきった頭で、ラヴィはやっと頷く。

「え、ええ……でも……」

 ラヴィが説明するより、老婦人がルーディの頬を、音高く引っ叩いたのが先だった。

「フラヴィアーナは返して頂きます!駐屯地での不正が暴かれ、この子の父親の汚名も晴れましたからね!奴隷に売られたのは不当な扱いだと、法的にも証明できますよ!」
「え!?え!?」

 目を丸くしているルーディに、迫力満点の老婦人が詰め寄った。

「こんな怪我までさせて!!ええ、これ以上、私の大事な娘に、指一本でも触れて見なさい!ただではおきませんよ!!」
「い、いや、あの……ちょ……っ」
「奥様、落ち着いてください!」
「おば様!この怪我は違います!」

 執事とラヴィが二人がかりでやっと宥め、すべてを話す事は出来なかったが、ルーディに対する誤解はなんとか解けた。

「――連絡しようと思ったのですが、屋敷が焼け落ちていたと聞き、おば様も酷い目にあったのかと……」

 心配するラヴィの前で、老婦人はコホンと咳払いする。

「それですがね、貴女のおかげで助かったようなものです」
「え?」
「何年かかっても貴女を探そうと思い、王都へ引っ越したのですが、次の日に隣家からの出火で、田舎の屋敷は全焼です」

 そして、「私は占いや迷信の類は信じませんが」と、前置きしてから言った。

「貴女は、とても幸運な星の元に生まれたのでしょうよ」
「…………はい」

 涙を堪えながら、ラヴィは頷く。
 これから色々と、やり直すのだ。
 人生は何があるか、本当に解らない。
 不運と幸運が、コインの裏表のように繋がっていたり、思い込んでいた事が、まるで検討外れだったり。

 だから、自分でよく見て、考え、決める。

 手始めに一つ、小さな事から……田舎の屋敷を出る時に、小さな頃から彼女を一度もこう呼ばなかった事を、ずっと後悔していたのだから。

「ご心配おかけしました……お母様」



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