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満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)
【ファンタジー 官能小説】

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シシリーナの元・吸血姫-1

 さまざまなゴタゴタが片付いてから、ラヴィはサーフィから、これら事件の顛末を聞いた。もちろん『極秘』の二文字がしっかり付いて。

「……もう絶対に、会話した事もない人の悪口はいわない」

 ソニアの正体がソフィア姫だったと聞いて、ラヴィの第一声はそれだった。
 ベッドに上体を起こして起き上がり、自己嫌悪にがっくり落ち込む。

 ラヴィの怪我を見たバーグレイ商会の医師は、見た目は酷いが、信じがたいほど急速に治癒していると驚きどおしだった。
 血の量から言えば、あの場で失血死してもおかしくないはずだったそうだ。
 だがルーディに抱かれていた事で、人狼の治癒力がラヴィにも多少うつっていたのだろう。
 明日にでも、ベッドから出る許可が下りるはずだ。

「ソフィアさまは、少々誤解されやすいのです。しかしあの方は、シシリーナ国の民から、とても好かれております」

 サーフィが苦笑しつつ宥めてくれた。
 ルーディは食料の買出しに行ったため、室内には二人だけだ。
 しばらく雑談を交わした後、ラヴィは思い切って尋ねてみた。

「バーグレイ商会は、毎年この王都に来るのでしょう?サーフィにもまた会えるわよね?」

 隊商は普通、一箇所に留まらない。事件の事後処理などでまだしばらくここに滞在するだろうが、サーフィも近いうちに王都を離れるのだ。
 サーフィの赤い瞳が、驚いたように見開かれ、それからためらいがちに伏せられた。

「……ええ。おそらくは」
「サーフィ?」

 浮かない口調にラヴィの顔も曇った。

「あの……友達になれたと思ってたんだけれど……」

 そう思っていたのは、自分だけだったのだろうか?
 気まずい沈黙が部屋に満ちるなか、サーフィが大きく息をして言葉を吐き出した。

「ラヴィ……私は友人に嘘をつきたくありません。ですが、これを聞いても、貴女は再び私を友人と見てくださいますか?」
「なにを……?」
「私はかって『吸血姫』と呼ばれ、シシリーナの王宮に住んでおりました」

 思いもよらぬ告白に、ラヴィはたじろぐ。
 残虐な魔性の妖女と言われた『吸血姫』の噂は聞いていた。

「そんな……だって……どうみても普通の……」
「私の身体は治療され、もう血を飲む必要はなくなりました。ソフィア様や数々の方のご助力により、今の私がございます。しかし過去は消えません」

 消え入りそうなほど小さな震え声で、サーフィが尋ねる。

「生まれてから十八年間、人の生き血を飲み続けていた私と、また会いたいと思いますか?」
「あ……」

 サーフィと今まで交わした数々の会話が、脳裏に蘇る。
 そうだ。沢山のヒントがあった。

 大陸では珍しい白銀の髪と赤い瞳。シシリーナ前王の護衛を務めていた天才剣士の腕前。血を飲まねば生き続けられない彼女は国中から忌み嫌われていたらしい。

「……こんな時は、正直に言ったほうが良いのよね」

 ラヴィはまだ力のあまり入らない手を伸ばし、刀を振るえば無敵な少女の、震えている手をそっと握った。

「サーフィ。私は噂に聞く吸血姫がとても恐かったわ。でも、本当の貴女はとっても素敵。私は貴女の友人になれた事を誇りに思う」
「……慰めではございませんか?」

 涙声で笑い、サーフィが目じりを拭う。

「私の率直な意見よ」

 その時ちょうど、果物をいっぱいに抱えたルーディが扉を開いた。

「――え?二人して何やってンの?」

 手を取り合う少女達の姿に、キョトンと琥珀色の目を丸くする。
 小さな部屋の中に、少女達の笑い声が上がった。


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