12-1
またいつもの生活に戻った。
くじ引きで席替えがあり、泉は一番前をひいてしまったが、目の悪いクラスメイトに「交換しない?」と持ちかけ、一番後ろの席に替わった。皆がそれぞれ裏取引をして、仲間とつるんで座っている。泉の横には大輔が座り、その隣には郁美が座った。
「お前ら、本当にくじびきか?」
高橋に疑われたが、泉は「くじ運が悪くて」と言い、高橋は笑っていた。きっと全部分かっているのだろう。
浩輔は、くじを引いてすぐに一番後ろの廊下側に歩いて来たが、誰かに交換を持ちかけられたのか、窓際の一番前の席に座っていた。
「だいちゃん、誰と交換したの?」
大輔は不敵な笑みを浮かべ「誰だと思う?」と言うので、泉は「分からないから訊いてんじゃん」と苛立ちをぶつけるとあっさりと「こう君」と答えた。
どくん、と心臓が拍動した。なんだ、こう君、隣だったんだ。
彼氏である大輔が隣の席にいて嬉しいはずなのに、どうして大輔と浩輔がくじを交換してしまったんだろうと歯痒い自分もいて、困惑した。
優しい浩輔の事だ、大輔に言われるまでも無く、自分から交換を申し出たのだろうと、泉は思う。大輔に訊くと、その通りだった。泉がクラスメイトとくじを交換していなかったら、浩輔の隣になる筈だった。
泉は「うまく行かないなぁ」と呟き、拳でこめかみを抑えた。
席替え以降、浩輔は「読みたい本がある」とか「予習しておきたいから」とか理由を付けて、四人の机に近づかなくなった。授業中は勿論話す機会なんてないし、部活でも話さない。水曜の帰りも何だかんだ理由を付けて一緒に帰らなくなった。
「気を遣ってくれてるんじゃない?」
大輔はあっけらかんとして言うが、泉は納得がいかなかった。本当に気を遣っているのだとすれば、大輔は喜んでいる様子だったが泉は全然嬉しくないし、だけどそんな事を言って自分の気持ちが浩輔に知られてしまうのも困り物だった。
何だかもやもやした物を抱えたまま、どんどん月日は過ぎて行き、週に一度話すかどうか、ぐらいまで遠ざかりつつあった。
「掲示物係、放課後に掲示物取りに来て。あとついでに、学年掲示板に貼る物もあるから」
高橋の無茶振りに泉は頭を抱えた。学年掲示板って、あのデカいやつ。
それでも久々に回ってきた掲示物係の仕事で、浩輔と話す機会が持てると思うと泉の胸は控えめに高鳴った。
帰宅する生徒や部活動に行く生徒の合間を縫って浩輔の所にたどり着いた泉は「どうしよっか」と話しかけると、いつもの、壁を隔てたような笑みを浮かべた浩輔が「とりあえず俺が教官室に取りに行ってくるから」と言葉の途中で既に動き始めていた。
後を追おうかと思ったが、やめた。きっと小走りに、もう階段を降り始めているだろう。