殺害予定-1
日が地平線の彼方に沈み、これから闇は少しずつこの部屋を侵食していく。
僕は部屋のなかで一人怯えていた。部屋に闇が訪れると、あいつが現れる。
いや、もしかしたらあいつが来るから、闇が訪れるのかも知れない。
でも、もうどっちだってかまわない。
今日こそ僕は、あいつを‥‥殺す。
僕が、いつもどんなに傷ついても、笑っていた。
笑うのが役目のように、ただずっと笑っていた。
心がズタズタに切り裂かれた時も、それ以外の表情が存在しないかのように笑みを浮かべていた。
その顔が大嫌いだった。
でもそれも今日で最後にしてみせる。
窓の外を見ると、空はいつのまにか完全に闇が支配していた。
あいつはいつも、いつの間にかいる。
そして今日も。やはり顔は笑顔だ。
あいつの笑顔は嫌な記憶としか結び付かない。
もうこれ以上は我慢できない。
用意してあったナイフを、震える右手で掴む。それでもあいつは笑ったまま。
そして振りかざしたそれを、一気に振り下ろした。
手が赤く染まる。いや、世界のすべてが赤く染まっていった。
赤く、赤く‥‥
…気が付いたらベッドで寝ていた。だけど、ここがどこかはわからなかった。
そのとき部屋の戸が開いて誰かが入ってきた。母さんと看護婦だった。どうやら病院らしい。
母さんは、涙を流しながら何か話し掛けてきたが、知らない国の言葉のようだった。
あれは夢だったのだろうか…
そんなとき、またあいつが現れた。母さんはあいつと話はじめる。あいつは笑ってそれを聞いる。
そんな予感はしていた。やっぱり、あいつを殺せなかった。
わかっていた。あいつは僕だから。
嫌な事を僕に押しつけて、ただ笑ってまわりに流されるだけのもう一人の僕。
夜、独りになるたびに、それを思い出してきた。
…しばらくして、話が終わったらしく、看護婦も母さんも帰って、病室には僕だけになった。
結局、またあいつが笑い続けている。
辛いことを押し込めて、何事もなかったかのように。
…その時、枕元にリンゴとくだものナイフを見つけた。
僕は一瞬迷ったが、それに向けて手を伸ばす。
‥‥今度こそ、今度こそ‥‥