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「いずみー」
踏切の警報音に負けじと張られたその声の主が誰か、泉はすぐに気づいたが、前を見たまま振り向かなかった。放っておいてもじきに追いついてくるだろう。五年も顔を付き合わせていると分かる事も多い。
踏切の音が止み遮断機が開く頃には、大輔が泉の隣に追いついていた。軽く息を切らせているところを見ると、走って来たらしい。
「おはよ。あれ、同じ電車だったのか」
「かもな」
「また今年も同じクラスだね。何、大ちゃん、あんたストーカー?」
「こっちだって望んで一緒になってる訳じゃねーし」
大輔は手に持っていた鞄を肩に引っ掛け視線を前に向けると「五年目突入だな」と呟いた。俯き加減で春の穏やかな日差しに目を細めている。
桜の花弁が風に吹かれ、目の前に落ちてくる。泉は手のひらを空に向け、そこに吸い寄せられるようにして落ちてきた花弁をつまみ、そのハート形を確認した後、またひらひらと落とした。
「にしても大ちゃん、今日は早いじゃん。遅刻常習者の癖に」
早足に歩く背の高い泉に歩調を合わせ、同じ背丈の大輔は「始業式ぐらいはな」と言い、胸を張った。