もうひとりの想い人-1
「・・・・アオイ姫様」
背後から声をかけられ、目をひらいたアオイは振り返った。そこには物心ついたときからずっと傍にいた剣士のカイがいる。
「カイ・・・・」
「五大国の王が揃うなど・・・一体なにがあったのですか・・・・・」
「・・・・・」
何も言えずに・・・アオイはカイから目を逸らした。
「キュリオ様は何もおっしゃってくださいません・・・」
口を結んだまま何も語ろうとしないアオイを見つめたまま、カイはひとつの不安を口にした・・・。
「アオイ姫様・・・・
いなくなったり・・・しませんよね」
的を射たカイの言葉にアオイの背は震えた。
「・・・どうしたの、カイ・・・」
もはや取り繕うことも出来ない表情と声でアオイはカイへと笑顔を向けた。そのアオイのすべてが彼の不安を確実なものにしていく。
数時間前、キュリオと帰還したアオイの背に見えた光輝く翼。王たる者のみが許されたその証は、いずれこの幼い姫を治めるべき地へ縛り付けてしまう・・・
「もし・・・アオイ姫様が悠久を立つときが来たら・・・・俺も連れて行ってください」
驚いたアオイがカイを見つめると・・・迷いのないカイの瞳には決意の色がみてとれた。
「・・・・・っ」
うろたえ、一歩後ずさるアオイの腕をカイは掴んだ。
「・・・あなたが嫌だと言っても俺は・・・・っ!!」
カイの顔がアオイに近づいたとき・・・・
「その手を離せ・・・カイ」
低く不機嫌な声がふたりの耳に届いた。声のしたカイの後方へ目を向けると・・・そこにいたのはキュリオだった。
「・・・・お父様・・・」
「カイ・・・私はどこにも行かない、大丈夫・・・心配するようなことは何もないよ」
眉を下げて今にも泣いてしまいそうな顔でアオイは言った。
「・・・その顔で信じろと言うのですか」
カイの腕から逃れたアオイは、キュリオの元へ戻るでもなく・・・そのまま城内へと走り去った。
アオイのあとを行くキュリオの背に向かってカイが呟いた。
「俺はアオイ姫様を愛しています」
その言葉に、一瞬足をとめたキュリオはカイを振り返ることなくまた歩き出した。