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若き富田林亀太郎の青春
【コメディ その他小説】

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若き富田林氏、危機管理方法-4

「イタタタッ!イタイです!毛が抜けますって!」

オレは自分の遺伝子情報を熟知してる。オレの家系の遺伝子は頭の中身はエエけど外身に弱い。しゃーから髪の毛は普段から大切にしてるんや。アカン、今ので20本は逝ったがな…

「じゃかまし、起きさらせ!」

男は空いてる方の手にカップを取り、鷲掴みしてる方の手をグイっと上に引っ張り上げようと力を入れた。ホンマにアカン、今度は30本や。

あはは〜、あはは〜、待て待て〜、オレの髪の毛さ〜ん♪

オレは去りゆく長い友だちの事を思いながら、余りの極限状態のために一瞬、現実逃避してしもた。

アカンアカン、気をしっかり持つんや。なんか切り抜ける方法が有るはずや。顔を上げたら負けや!トンでもないことになる。と理性がオレを禿げ増す、いや、励ます。しゃ―けどこのままやったらオレの大切な髪の毛がトンでもないことになる。と遺伝子がオレに訴えかける。

前門の特性コーヒー、肛門のケツ毛、いや後門の髪の毛やがな…

「いつまで抵抗しとんねん!いい加減にさらさんかいな」

しかし、どちらを選択するかは、理性ではなく遺伝子レベルでの判断が上回りよった。理性で制御していた抵抗力を遺伝子が徐々に軽減していきよるがな。そして今、髪の毛に対する遺伝子の防衛本能が勝利した。

「そうやそうや、ようやく顔を上げよったな♪」

えっ、ホンマやん。特性コーヒーに対する防御力ゼロやん。どうなんねやろオレ?アカン、虚ろや。なんか目のフォーカスも合わへんようなってきた…

「それでええん、ん―!ん―――!げっ!」

男は何かに驚きよった。

ん?『げっ!』てなんや?

「や、や、やっぱりええわ」

男がなんか慌てだしよった。

ん?『ええわ』てどう言うことやろ?さっきまで激昂していたのに、なんか知らんけど急にトーンが下がりよったで。

「に、に、にいさん、やっぱり起きんでええですわ。さっきみたいに頭下げといてください」

ん?『頭下げといてください』やて?飲まんでええんやったらなんぼでも下げるけど、なんか様子がおかしいやんけ。

「うっわ、こんなに抜けてはる!す、すんまへん。ちゃんと戻しますわ」

男は手に着いたオレの髪の毛に驚いたようで、再び土下座状態に戻ったオレの頭の上で、汚いモノを払うようにして抜けた髪の毛をパラパラと振りかけよった。

うっわ、勿体ない!ちゃんと振りかけな床に落ちて行ってるやんけ。

「も、もうええですわ。にいさんの誠意は解りましたんで、もう戻ってください」

「ホンマにもうええんですか?」

オレは恐る恐る聞いた。

「ホンマですホンマです。もう戻ってください。ボクもそろそろ一発やりたいからベッドの方に行きますわ」

男はそう言って部屋の奥へと入ったようや。

ん?さっきはドスを効かしてたから解らんかったけど、こいつの素の声どっかで聞いたことがあるような?

まっ、ええか。気の変らんうちにとっとと戻ろ♪オレは嬉々として立ち上がり、ヘタレなツレの元へ颯爽と戻ろうとした。が、長時間の土下座の痺れと名誉の負傷によって、立ち上がった途端に派手にひっくり返ってしまったんや!

『ドン!ガッシャーン!』

一旦部屋の奥に引っ込んでた男がその音にびっくりして出て来よった。そして咄嗟に
「か、亀やんクン、大丈夫か!」と叫びよった。



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