若き富田林氏、最大のピンチ!-5
「なんじゃ、あのオクレ!責任放棄やんけ!」
そう怒鳴って再び時計を動かしたのはオレや。
「ホンマしゃーない社長やなあ。いつも苦労するんはワシばっかりやんけ!おい、西除川はどうや?」
石川のオッサンが自分の嫁はんに確認した。
「アカン、いつも以上に反応せえへんわ」
「ホンマは気ぃ付いとんちゃうけ?」
松原が胡散臭そうに言った。まあ、誰が見ても狸寝入りやな。オレが確かめたろ。
「オレが確かめたるわ。オイ岸和田、そこのビール瓶とってくれ」
「さらっぴんか空かどっちや?」
「さらや、中身が入った重たい方や!よしそれでエエわ」
オレは中身の入ったビール瓶を西除川支配人が寝てる頭の上に掲げた。
「エエか今から頭の上に落とすでぇ。支配人さんが気付いてたら動きよるし、気付いてなかったら頭にドン!や」
「お前、もし気付いてなかって、それ頭に落ちてきたら死ぬかもしれんで」
岸和田がビビりだした。
「しゃーけど、このままやったらどうしようもないやんけ」
「よし、ワシが許可する。万が一が有ったら事故扱いにしたらええんや」
石川のオッサン、ええ歳してその考え方で大丈夫か?
「それもそうやな。不幸な事故や」
岸和田アッサリ同意。どないやねん。
「もうええわ、3、2、1で行くど!」
「おー、イケイケ!」
「3、2、1、それ―っ!」
ナント、オレの掛け声を聞いた西除川支配人はゴロンと横に転がった。
「わっはっはっ!起きてるがな!マンガみたいなオッサンやでぇ」
オレは落とすふりをしただけのビール瓶を振りながら、大の大人が子供の様に引っ掛かったことを喜んだ。
「か、堪忍や、ヤクザ相手なんてワシには無理や、どうしても言うんやったらそのビール瓶でワシの頭をかち割って殺してくれ―!今度は逃げへんから一気にいってくれ―!」
西除川支配人は泣きながら両手を合わせて懇願してきた。
「よっしゃ、よう言うた。そこまで言うんやったら引導渡したる」
オレは手にしたビール瓶を西除川支配人の頭上に振り上げた。
その途端、西除川支配人は豹変した。
「ぎゃ―!殺される―!人殺し―!」
ビックリするくらいの大声で叫びよった。皆がその声に怯んだ隙に、西除川支配人は自身の雇い主を見習ってドアの向こうに一瞬にして逃げ出した。
再び、事務所では最低5秒は時間が止まった。
次に時計を動かしたんは、『プ―――!』と鳴った事務所の電話やった。点滅するランプを見たら、どうやら問題の部屋からみたいやね…。