若き富田林氏、最大のピンチ!-4
「お客さんがポットを開けたら、使用済みのコンドームが入ってたらしいですわ。それも根元もくくらずポットの中に垂れ流し…」
「ゲ―!きっしょ―――!」
オレらは思わず声を合わせて叫んだ。
「きっしょ―てなんじゃい!お前らチャンとポットを確認したんか?お―っ!」
石川のオッサンはそんなオレらを睨みながら凄んだ。
えっ?ポットを確認?誰やポット見てたんは?しゃーないやっちゃで!
「え〜と、ポットて誰が見てたんかな?オレはチンさんとゴミとシーツやってたから知らんで」
岸和田は自分に非は無いとアピりながら皆に聞いてきた。
「そうそう、岸和田はちゃうわな。オレが証言したってもエエわ」
オレは岸和田を庇った。
「オレは風呂やったしな。コップやってたんは泉大津ちゃうんけ?」
松原も余裕を取り戻し泉大津にふりよった。
「そうそう、まっつんもちゃうわな」
オレは松原の無実も証明した。
ん?なんや?オレの灰色の脳細胞が松原の言った『泉大津』にチクリと反応したやんけ。
「ポットはオレちゃうちゃう」
泉大津はそう言いながら、オレの方にちっちゃい目を向けよった。そんな泉大津の視線に釣られて事務所内の皆の視線がオレに集まった。
「オ、オレか?オレそんなん見てない………。ん?待てよ…。あっ、あ―――っ!そう言えば泉大津が湯の量見とけ言うとったかな。しゃーから横窓から湯の量は見たけど…」
思い出した途端、オレのハートは一瞬にしてバクバクとなった。
「ぞ、雑木林くん!な、なんちゅうことをしてくれたんや!」
大和川社長の甲高い声が響いた。しかし、それだけやなかった。
「新人お前やったんか?」「亀やんアカンやんか」「手ぇ抜いたらアカンわ」「エライことやでぇ」「富田林さん、気ぃつけな」
自分に責任が無いと知り、ホッとした面々が口々に攻めてきた。
「そんなん中も見ろて誰も教えてくれへんかったやんけ!」
このオレの反論の言葉は、数倍になって返ってきた。
「教えんでも中身見るのは当たり前やんけ!」「何さらしとんねん」「ええ加減にせんかい」「ボケが!」
なんと、心根の腐ったヤツらは自分の事をさておいて、非の有る者を見つけると寄ってたかって執拗に攻め立てて来よった。
【義を見てせざるは勇なき也】
しょうもないヤツに限って、そこに正義を見出すと、心の拠り所として騒ぎたてよる。記者会見で新聞記者が正義の代弁者ぶって偉そうに言うのはお馴染みの光景や。
「ポットにコンドームはアカン、精子が可哀想でおばちゃん悲しいわ」
トドメに放たれたチンさんの発言だったが、さっきまでのように『黙れチン!』と、誰も言ってくれへんかった事がとても悔しかった。
「社長、こいつは後でじっくり攻めるとして、取りあえず責任者が謝罪に行かなあきません。それと言い辛いのですが言葉使いからして多分スジモンやと思いますわ」
「ど、どんな感じやったんや?」
石川のオッサンが言い難そうに言うと、大和川社長はまたもや怖々と聞いた。
「『何さらしとんねん』とか『ええ加減にせんかい』とか『ボケが!』とか品の無い言葉ばかり言うんですわ」
石川のオッサンは畳みかけるように舌を回しながらヒドイ言葉を羅列しよった。こっわ〜、そんなんホンマモンしか言わんセリフやんけ〜。
それを聞いた大和川社長は、今度はガミラス星人くらいの青い顔になって固まりよった。
「社長、どうしましょ?」
石川のオッサンの言葉に反応した大和川社長は、ハッとした顔を浮かべて腕時計を覗き込んだ。
「あっ、そやそや、ワシ急用を思い出したわ。直ぐ出かけなアカンねん。君らでちゃんと対応しときや」
大和川社長は甲高い声を上げると同時に、脱兎の勢いで事務所を出て行きよった。
皆が呆気の取られて大和川社長が出て行ったドアを見ていると、再び貧相な顔をドアから覗かせた。
(なんや社長、帰るやなんて冗談やったんか)と、皆が安心したのも束の間やった。
「そうそう、言い忘れたけど金で解決しよう思たらアカンで。誠意を持って謝るんや。金で解決したいんやったら自分のサイフ使い」
大和川社長は言いたいことを早口で言ってから再び逃げるように去って行った。
事務所では最低5秒は時間が止まった。