若き富田林氏、最大のピンチ!-3
「ちょっとアンタら、さっきの部屋ちゃんと掃除したんか?」
「どないしたん?」
石川さんの剣幕に岸和田が戸惑い気味に聞いた。
「さっきの部屋に入ッた次のお客さんがエライ怒って電話掛けてきてるんや」
「さっきのブザーはそれか?で、何怒っとんの?」
「さあ?今ウチのんが話聞いてる最中や。取りあえず事務所来て」
「なんやろ?オレらちゃんとしたよな?」
事務所へ向かいながら岸和田が皆に聞く。
「全く問題無しや」「ホンマホンマ新品や」と、松原と泉大津が答え、オレはオレで「オレは何もしてないからわからんわい」と、正直に答えた。
事務所に入ると石川のオッサンがペコペコ頭を下げながら、電話の応対をしているところやった。
「すみません。責任者を直ぐにそちらへ向かわせます。はい、責任者です」
『責任者』と聞いた大和川社長はイヤ〜な顔をして、その目を西除川支配人に向けた。西除川は社長と目が合った瞬間、驚くことに「う〜ん…」と言ってその場に崩れ落ちよった。
「アカン、この人また貧血や。西除川さん、ええ大人が何失神してんのよ。しっかりし!社長、なんでこんな気の弱い人を支配人にしてはるんですか?毎回毎回なんか有る度に失神して鬱陶しいわ!」
支配人に駆け寄りを介抱をしだした石川のおばはんが社長を睨みつけた。
「なんでて、そらぁ色々あるがな…」
大和川社長も石川のおばはんには頭が上がらんようや。
「彼は優秀やし…気が効くし…頼りになるし…」
大和川社長はモジモジしながら西除川支配人に一切無い素養をブツブツと並べだした。
オクレ社長、虚しい、虚しすぎるやんけ。オレにでも簡単に想像がつくがな。多分、まともな支配人を雇うのが勿体ないから人件費ケチッただけやろな。セコすぎや。
まるで新喜劇みたいな修羅場の中で、「はい、誠に申し訳ありません。今、行きますので」と、石川のオッサンの謝罪の言葉が虚しく繰り返された。
何回目かの謝罪の言葉を繰り返した後、受話器を置いた石川のオッサンはオレらを睨みつけた後、鬼瓦のような顔から一転させ、オクレ社長に困惑顔を向けた。
「社長、エライことですわ。私が一生懸命対応したにも関わらず、お客さんの怒りは収まりませんのや。ちゃんと対応してたの見てましたやろ」
このオッサン、こんな時に何をアピっとるんや!
「な、何が有ったんや…」
ホンマは聞きたくないといった感じで、大和川社長は貧相な顔を青くしながら怖々聞きよった。多分、オレらもオクレ社長と同じような青い顔してるやろな。
石川のオッサンはそんな青い顔した半病人達を前に衝撃的な事を言いよった。