若き富田林氏、最大のピンチ!-2
「じゃかましわい!」
「聞きなさい子羊よ。世間の不条理を仲間内に向けあう行為、神は嘆いておられるぞ」
「はあ?お前何言うてんねん、ばったモンの教祖か!」
「このようなことは人生では有りがちなことなのだ。人類の歴史がそれを詳細に物語っておるぞよ」
「なんやて?」
このボケ、何を言い出すんや?歴史がいつラブホテルを語っとんねん?
「嗚呼、虐げられた民衆は甘んじてラブホテルを享受し、一部の支配階級が一流ホテルで悠々と一発ナニをする。これは形が変わっても歴史の真理」
な、なんや、えらい熱く語るやんけ!
「そ、そう言われれば中学で習ったような…」
オレは岸和田の熱気に気圧されながら、中学で『日の丸反対』と言っていた色気の無い女教師を思い出した。
「しか―し!歴史はさらに物語る!」
岸和田はそう言いながら、オレの目を見てズンズン顔を近づけてきよった。
「何を…」
きしょっ、イヤ、こっわっ!き、岸和田ぁ、いつになくエライ迫力やがな。
「虐げられた民衆の不満は、やがて支配階級のシステムそのものを凌駕することを!」
「お―――!」
なんや知らんけどこっちも熱なってきたぞ!
「民衆よ、今こそ立ち上がれ!」
岸和田は叫んだ!
「わが師よ―――!」
彼に着いて行けば間違いない!オレは今初めて目が覚めたんや!
「ということで、悔しかったら成り上がって一流ホテルでするこっちゃな」
一芝居が終わったところで満足し、岸和田はいつもの調子に戻りよった。
「アホ、幾ら出世したかて一発ナニするだけで一流ホテルなんて勿体ないやんけ」
こっちもノリを止めていつもの調子で答えた。レベルの低いヤツに合わすん疲れるで。
「そやろなあ、貧乏が染み込んでるお前やったらそう思うのはしゃーないわな」
「ほっとけ」
しみじみ言うな、悲しいや無いか…
「まあ、それやったら当面の解決方法はこの社会の不条理の不満を別に向けることや」
「どういうこっちゃ?」
「お前もイチイチ客のこと気にせんとオレらと同じようにやったらええねん」
「ん?そう言われればそうやのう…」
「そうや!どうせこんなとこ来るヤツらは欲望まみれのヤツばかりやんけ!自分らだけええことしやがって!」
なんや岸和田のヤツ、イキナリ興奮しだしよったぞ。
「そうやな、そんなヤツらのこと考えてもしゃ―ないか」
「そうじゃボケェ!そんなヤツらは精子入りコーヒー飲ませたったらええねん。チクショ―!」
「お前、かなり私情が絡んでるな」
やっぱり、モテへんレベルの低いヤツの考えることは大体こんなモンやろな。
「まあ、解ったわ。しゃーけど客の使たタオル触るのきしょいで」
「それは我慢せなしゃーないわ。オレは直ぐ慣れたで」と、松原。お前はチョット普通と違うしな。
「そうそう、直ぐ慣れるて」と、泉大津。お前はチョット別モンやがな…
しかし、こいつらのアホな顔を見てたら、なんかどうでもようなってくるな。
「まっええか!ウジウジしててもしゃーないしな、取りあえずカブでもしょうけ―♪」
立ち直りが早いのもオレの特技や。
しかし、気持ちを入れ替えたのも束の間、またもや『プ――』と気の抜けたブザーが鳴ったのが聞こえてきた。
「またや、メチャ忙しいやんけ。カブいつできるねんな…」
めいめいにブツブツ言いながら、さっきと同じように備品を用意してるところに石川のおばはんが慌てた様子で控室に入ってきた。