若き富田林氏、苦悩す-1
ところでにいちゃん、ラブホテルに行ったこと有るか?あっ、ええ、ええ、答えんでええわ。にいちゃん甘いマスクしてるもんな、愚問やったわ。モテモテで『行きまくり星人』ちゅうヤツやな。オレは『イかせまくり星人』やけどな!
少しの間…(ここ笑うとこやのに…)
しゃ―けどにいちゃん、見れば見るほどカッコええやんけ。オレがもし女やったらにいちゃんと行きたいくらいやで。ホンマ!
えっ、ウソウソ、冗談やん、ウソやって、その目で見るなっちゅうねん!こっわ〜、にいちゃん両刀かいな…
えっ?オレか?オレはラブホテルは余り行かへんな。なんでって?こっそり教えるけどオレは車内専門や。アホッ!セコいからちゃうわい!
あの窮屈な空間でありながら、直ぐそこに外界が存在する解放感♪マロンやマロン。堪らんのう♪って違うっちゅうねん!オレはラブホテルが苦手なだけや。
今から言うこと聞いたら、にいちゃんもオレの気持ち少しは理解できると思うわ………
…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…
「岸和田ぁ、ところでココって何部屋有るねんな?」
「2階、3階とも12号室までやけど、204と、304は無いからから22部屋やな」
「結構多いなあ、この人数で掃除足りるんか?」
「まあ、今日は大丈夫や、余り入って無さそうや」
「ホンマか?さっき空き部屋のパネル見たけど、2,3部屋しか開いてなかったぞ」
「あっ、それはハッタリや。暇な時は料金の安い部屋止めてるんや。開けてるのは高い部屋だけや」
「セッコ―!あのオクレ、見た目とおりのメタセコイヤやのう」
「まあ、金を残すんやったら見習わなアカンわな。大和川社長――!オレは付いていきまっせ〜!」
「うるさい!耳元で叫ぶなボケッ!やっぱりお前ら一族はどっか壊れとるわ。人間として大切などっかがな」
「それは聞きあきた」
「お前はアホやから何べんも言わんと頭に入らんやろ」
「お前ら、しょうもない漫才やめて、時間も有りそうやしカブでもせえへんか?」
二人のやり取りを聞いてた松原が提案しよった。松原、ナイスや!レベルの低いヤツとしゃべってたら疲れるねん。それにカブはオレの得意技やんけ!岸和田のパチンコの勝ち金を巻き上げたろ。
「よし、ここらの悪いモン払うためにイッチョやるか!」
オレが景気付けに言った時やった。事務所の方で『プ――』と気の抜けたブザーが鳴ったのが聞こえてきた。
「アカンわ、客が帰る電話が鳴りよった。掃除の時間やな」
松原が残念そうに言いよった。
「まあ、カブは後でしたらええやんけ。この電話の後に石川のおばちゃんかチンさんが部屋に集金に行くんや。ドアの横に小窓が有って客はそこから支払いよるねん。客は金払ったら悪いことしたみたいに急ぎ足で出てきよるぞ。ホンでようやく掃除開始っちゅうわけや」
そう言った岸和田がバスタオルとフェイスタオルを2枚づつ棚から取り、泉大津が枕カバーとシーツカバーを同じく棚から引っ張りだした。松原はコンドームその他が入った籠を手に持ってスタンバイ開始の様子。なんか仕事してる感じがしてきたわ。ようやくなようやく。
控室にはラブホテルの廊下側へと抜けるドアも有り、清掃のときにはそこから出入りをする。ドアから出ると直ぐに廊下やなくて2mくらいの空間が有った。廊下にはその空間を隠すようにして腰から上のカーテンがぶら下がってあった。
しばらくその空間で待機してると、『ピヨピヨピヨ』と廊下に音が鳴り響いた。
「なんの音や?」