若き富田林氏、刺激的な初仕事-1
えっ?今までの話聞いても全然苦労したように思われへんやて?
にいちゃん、そらそこに居れへんから言えるセリフやで!考えてみ、オレみたいな一般人が魑魅魍魎の中で過ごすんやで、同じ空間に居るだけで神経が参ってまうちゅうもんや!
まあ、ええこの話聞いたら、にいちゃんも大変なのがわかるわ………
…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…
「まあ、座れや。一応ここに有るもんの説明しとくわ」
岸和田がオレを座らせると、自分はスチール棚の横に立って在庫品の説明を始めた。
「タオルはバスタオルとフェイスタオルの二種類。普通はクリーニング屋に頼むんやけど社長がセコイから石川のおばちゃんとチンさんとで洗濯してるんや。畳むんはオレらの仕事な。
枕カバーは1種類、シーツカバーは3種類。高い部屋ほど大きいんや。これはさすがにクリーニング屋行きや。籠に入ってるのが、シャワーキャップ、くし、マッチ、コンドーム、消毒済みて印刷してる紙の束、カップラーメンな。掃除に行く前に籠に入ってるか見とかんと、いちいちここに取りに戻ってたら鬱陶しいからな。客が飲み物を飲んでたらそこの冷蔵庫から出して持って行かなアカン。
あっ、言うとくけどここの品物持って帰ったらアカンど。社長セコイから数をちゃんと数えてるからな。特にコンドームはアカン。欲しかったら部屋で客が使い残したヤツにしとけよ。部屋には2個置いてるから客がオヤジの時は1個残るんや。ヤツら命を削りながらやってるから1回が限度なんや」
「アホ、客の使い残しなんか要るけ!きしょいわ」
「えっ、亀やん要らんねやったらお前の取り分、オレ貰うわ」
潔癖なオレが岸和田に突っ込みを入れると、やり取りを聞いてた松原が目を輝かせて身を乗り出した。
「まっつん、お前素人童貞やろ!使う時ないやんけ!」
オレが嘲笑を浮かべて、悲しい友人を揶揄した。
「アホやなあ、使い道は別に有るんや。中高生やったら1個100円で買いよるで。地道に稼がなな」
「お前、相変わらず金が絡むとアイデアマンやのう」
ほとんど恐喝まがいに後輩に売り付けるのは目に見えてるが、ホンマ関心するわ。
「まあ、控室で教えれるのんは大体こんなところや。後は実際の掃除の時に教えたるわ」
「まあ、適当に覚えるわ。ところでお前らはもう慣れたんけ?」
岸和田の説明が一段落したので、オレは松原と泉大津に声を掛けた。
「そうやなあ、オレも泉大津も昨日からやけどムチャ楽やったでぇ!簡単なもんや」
なるほど、怠け者の松原が言うんやったら間違いないな。
「今日も空いてそうや、しばらくは待ち時間やな。亀やんもその辺で寛いどけや」
岸和田が松原の言葉を証明するようにゴロンと横になった。しかし、オレは気になることがあるので、直ぐに寛ぐことはできない。
「ところで岸和田よ、どこに有るんや?」
オレは気になってることを聞いた。
「何がや?」
「お前は相変わらず頭の回らんやっちゃのう。ラブホテルで『どこに有るんや』て聞かれたらアレしかないやろ!」
「しゃーからなんやねんな?」
こいつホンマにしゃあない奴やのう。
「アホ!覗き部屋やんけ!マジックミラーの部屋はどこに有るんや?」
「お〜、それか〜」
「それしかないやろ!鈍いやっちゃな」