若き富田林氏、刺激的な初仕事-2
「それは無い」
岸和田はアッサリと返した。
「なんやと!無いてなんやねん!ここラブホテルやぞ!」
「オレもそれ期待しててんけどな。ここには無いねんて」
「そんなアホな…。あのオクレ社長、そこは作っとかなアカンやろ」
「幾ら社長でもアカンねや。ホテルは防火に厳しいから、設計に無いそんな開口部作ったら消防検査やら竣工検査が通らんねんて」
「検査通ってから作ったらええやんけ!何を眠たいこと言うとんじゃ!」
ええ大人のクセに、使えんヤツらや!
「さあそこや、石川のオッサンも『何で作らんのや』って社長に直談判したらしいわ」
「あのオッサン、そこんとこはちゃんと抑えてるやんけ!見なおしたわ。ホンでどうなった?」
「業者や!」
「はあ?」
また勿体ぶっとる!
「業者が悪いんや!改造の見積書を社長の嫁はんに渡しやがったんや!全く知らんかった嫁はんが激怒して却下になってしもたんやて!」
「なんちゅうアホな業者や!メチャメチャペナルティやんけ。しゃーけど嫁はんも何で却下にしたんやろか?」
「これはオレの想像やけどな。多分、社長は嫁はんを構てないんや。嫁はんは自分はしてくれへんのに、その社長がそんなん見るのが許されへんのやと思うわ」
「おいおい、社長の嫁はんて幾つよ」
泉大津が恐々と聞いてきた。
「還暦は超えてるやろな」
「げ―――!気色悪―――!あのオクレと還暦の嫁はん…。アカン、想像してしもた…。立ち直られへん…」
泉大津撃沈。
「オクレ社長め―――、使えんやっちゃのう。あいつのせいで、オレらええ迷惑やんけ」
オレは泉大津の無念さを代弁するように罵声を上げた。
「ホンマやで、オレなんかそれが楽しみで来たのに期待外れもええとこや」
怠けモンの癖して一番のスキモノの松原が力説しよった。しかし今回だけはお前の気持ちはようわかるぞ。
「声やったら聞こえるとこ有るんやけどな」
ポツリと漏らした岸和田の声に3人が反応した。
「なんやて―――!どこや!」
生き返った泉大津も岸和田に迫った。
「うそやうそや!お前ら必死やのう!わっはっはっ」
「う、うそー?」
岸和田よ、それだけはやってはいけなかった。オレは岸和田の胸倉を掴んだ。
「殺したる!」
案の定、オレの声に松原と泉大津が重なり、二人も岸和田に詰め寄った。
「おいおい、冗談やんけ…。おい、泉大津って、亀やんとまっつんを止めてくれや」
その岸和田の命令口調に泉大津が直ぐに反応した。
「何ぬかす、おい、二人で岸和田の両手押えてくれ」
おっ、泉大津強気やんけ!そうやな、殺すんは岸和田のせいでオオイエーを馘になった泉大津に譲ったろ。オレは岸和田の胸倉から手を離して右腕を取ると、松原が岸和田の左腕を抑えた。
「止め、おい触るな、冗談やんけ、イタイやんけ、二人とも離さんかい!」
「しっかり、抑えといてくれよ。ひひひ」
泉大津は常軌を逸した表情で指をポキポキ鳴らすと、直ぐにそれを始めた。
「や、止め―――!ぎゃ――――――――はっはっはっはっはっ、ひぃ―――ひっひっひっ、うひぃ―――、や、止め・・ひひひ―ひっ」
泉大津が自由の利かない岸和田の脇の下を擽ったのだ。
「お―!これが泉大津の悶絶地獄か―――!キッツ――!お、おい、こいつ泡吹きだしたぞ!」
松原が泉大津のゴールドフィンガーに驚嘆しとる。
「ひ――――――!」
「お、おい、今度は目ん玉ひっくり返ったぞ!」
恐怖に耐えかねた松原の声がひっくり返っていた。
「お、おい、チョットヤバいんちゃうか?」
度胸の有るオレまでビビってまうがな。
「おい、泉大津、もうええやろ、止めろ!」
「こいつめ、いつも上からモノ言いやがって!許さんぞ―、うひうひうひひひ―」
ア、アカン、こいつの目ぇ、イってしもとるがな…。こっわ―――。
「まっつん、泉大津を押さえ込め―――!」
「やめ――――」「ぎゃ――――」「うわ――――」「な、なんか入ってきた―――」「うっわ!きっしょ――――」「に、人間の動きちゃうぞ―――」「ぎゃ――――」
(中間省略♪)