若き富田林氏、名士と面会す-2
「社長、おはよっス!今日も一人連れてきましたでぇ〜!亀やん、こちらが社長の大和川さんや」
「お〜、連れて来てくれたか、昨日でおばはん5人辞めてもろたから、今日から早速頼むでぇ」
ナント意表を突いて甲高い声で応えたのがミスターオクレみたいなオッサンやった。
こいつが地元の名士やて?ウソやろ!
「えっ?イ、イキナリ今日からですか?面接とかは?」
「面接てなんや?岸本君が連れて来てんやったらそれでええがな。ワシ人を見る目無いしな。ま、名前だけでも聞いとこか」
オッサン、お前大丈夫か!それに『岸本』て自分の親戚の名前間違えてるぞ。
「は、はい、富田林です。よ、よろしくお願いします」
「そうかそうか、まあ、よろしゅうに」
ホンマにわかったんかいな?
「え〜と、そこにさらのタイムカード有るやろ。それに名前書いてタイムカード押しといてな」
「え、え〜と、これですね」
オレは新しいタイムカードを箱から抜き取り『富田林亀太郎』と書いて、タイムカードマシンに差し込んだ。時刻が刻印される『ガチャン』という音が意外と大きく、一瞬ドキリとした。
アカン…、何か気後れしとるがな…
「大和川社長、押したタイムカード、ホルダーの下の方に入れときますね」
んっ?なんや結構従業員多いやんけ。25人入りのタイムカードホルダーの二つがほぼ一杯やがな。
「ああ、そこでええよ。おい岸本君、雑木林君に皆を紹介したってや」
ぞ、雑木林てなんや…。アカン、こいつは人の話が聞かれへん種類のオッサンや!しかし、どう聞き間違えたら雑木林になるんや。
このオッサン、皆の名前覚えられへんから自分で紹介でけへんねやろな。
「はい、社長。おい亀やん紹介するわ。こちらが支配人の西除川(にしよけがわ)さんや」
岸和田が初めに紹介したのは気の弱そうなオッサンやった。
「と、富田林君やね、し、支配人の西除川です。お手柔らかにお願いしますね」
「はい、こちらこそお願いします」
なんやこのオッサン、めちゃめちゃオドオドしとるやんけ。違う場所で会うてたら、ソッコーでカツアゲのターゲットやど。
オレが支配人にメンチを切って反応を楽しんでいるのを他所に、岸和田は次の人物の紹介に移った。
「ほんでこっちが石川さん。オレらと同じバイトの人や」
ナント迫力満点のスポーツ刈りがバイトてか…
「石川や!オレはバイトやなくてただの手伝いやで!岸和田君、ちゃんと言うてくれな誤解されるやんけ」
「あっ、すんません。石川さんは運送業界の名門の『大阪鉄道運送』のトラック運転手さんや。奥さんがココに勤めてるから、運転の合間にワザワザ助っ人をしてくれることになったんや。それでこちらが石川さんの奥さんや、清掃係のまとめ役や」
石川に軽く頭を下げた岸和田が、これ以上の関わりを避けるように、まともそうなおばはんの紹介に移った。
「富田林さん、仕事は単純やから直ぐに覚えられるわよ。よろしくお願いしますね」
ナントおばはん、律儀に頭まで下げよったで。
しかし、石川のオッサンは外見に似ずに小うるさそうな感じやけど、それに反しておばはんの方はおっとりしたええ感じの人やのう。
「こちらこそ、お願いします」
まともな人が居てよかったわ。
「じゃあ、控室に連れていきます」
皆の己紹介も終わった岸和田は、さっさと入ってきた入口の反対側に有る廊下に続くドアから出て行きよった。
要領のわからないオレは、慌てて皆に頭を下げて岸和田の後に続いた。