僕らの日々は。〜台風来たりて。〜-6
「……さて。電気も回復した事だし、そろそろ寝ようか?」
「あ、もうこんな時間?そうね、寝ましょうか!」
「それじゃ僕は――」
陸斗君の部屋に行くよ、と言おうとして、
「それじゃ春風はちょっとだけ部屋から出てて!」
「へ?」
一葉に先に言葉を紡がれた。あれ?
「はーやーく!着替えるんだからっ!」
「わわっ、すぐ出るから!」
慌てて部屋を出る。
僕としては一葉の部屋で寝るわけにもいかないし、陸斗君(一葉の弟だ)の部屋ででも寝させてもらおうと思ってたのだが。
ちょっとだけ出てて、と言われたって事は……おそらく運ぶ布団が一葉の部屋にあるのだろう。
「それなら着替える前に運ばせてくれたらいいのに……」
なんとなく中に入りにくいじゃないか。
いやでも変に意識しすぎるとかえって微妙な感じだし、ここは何か他の事を考えて待つとしよう。
――そうしてしばらく廊下で、宇宙へ打ち上げられた人口衛星の孤独な旅路について思いを馳せる事数分。
「入っていいわよー」
「あ、うん」
一葉の許可が聞こえたので、一応ノックをして中に入った……の、だが。
「さ、寝ましょ」
「………あの、一葉」
「なに?」
「……いや、その」
ベッドに座った一葉は予想通りパジャマ姿で、まぁそちらも気にはなるが努めて気にはしないようにするとして……問題は。
彼女が座っているベッドの横、床の上にきちんと枕まで準備された状態で、おそらくは僕用の布団が敷いてある事だった。
……え?マジで?
「どうしたの?」
「いや、そのですね」
……えっと。一葉的には今晩僕はこの部屋で寝る感じで予定してたのだろうか。
たしかに小学生の頃は、泊まる場合は一葉の部屋で一緒に寝てたけど……僕らはもう高校生なわけで。
いやまぁそりゃ襲ったりなんかは神に誓ってしないし、別に同じ布団で寝るわけでもないから別にいいのかもしれないけど、その。
「んー?何かあるなら言いなさいよ」
「……えっと、……」
しばらくいろいろと悩んでいたが、
「……いやゴメン、何でもないや」
諦める事にした。
こんな風に悩むから逆に意識するんだろう。うん、きっとそうだ。
こうなったら何も考えずにここで寝るとしよう。
……本音を言えば、昔を思い出してちょっと懐かしかったりするし。
「そう?変な春風ね」
「僕はいつも通りだって。……ほら、電気消すよ」
「あ、ちょっと待って目覚ましかけるから!」
いそいそと針を調整する。
多分、僕が明日帰る時間を考えていつもよりちょっと早めに設定してくれてるのだろう。
「ん、オッケー」
それを合図に部屋の電気を消す。停電したときとは違い、意識的に迎えた暗闇は不思議と落ち着く気がする。
布団に入り、隣でごそごそと一葉も布団を被る音がする。
しばらくの、静寂。
「……ね、春風」
「ん?」
「起きたとき、まだ雨降ってるかな?」
「さてね。顔付きてるてる坊主が頑張ってくれるのを願おうか」
「ん、そうね。あ、そういえばさ――」
さっきまで内心であれだけ焦っていたくせに、いざこの状況になると何故だか不思議と落ち着いていて。
学校での話とか、普段話さないような昔の話とか。
そんな事をぽつぽつと僕らは話し続け――結局眠ったのは、日付が変わって一時間ほど経ってからだったように思う。