神官2-1
仙水の言葉に目を閉じたエデンは彼らのことを思い返していた。
「・・・赤子だったアオイを拾い、育てていたのは悠久の王キュリオだ。在位五百年を越える美しく立派な王だよ」
「悠久の王キュリオ殿・・・・」
穏やかに呟く仙水の言葉には感謝の意にも似た響きがあった。
「そして・・・吸血鬼の王ティーダ。彼女を奪うために大胆な行動にでたと聞いている。危うく国を滅ぼされかけたらしい」
「それは・・・育ての親のキュリオ殿が葵様を奪還に向かったからでしょうか・・・」
仙水は眉をひそめている。
葵が巻き込まれるのは嫌だが、民が傷つけられるのも見たくはないのだ。
「ああ、キュリオともう一人の王・・・エクシスという精霊王がいる。在位千年を越える最強の王だ。アオイのことになると見境がつかなくなる程・・・彼女を愛しているようだ」
エデンはマダラに聞いた話を伝えた。怒りのままティーダの国を壊滅させようとした、危険で一途な千年王・・・。
「・・・その王たちが葵を求めていると・・・?」
九条が苛立ったようにエデンを睨んでいる。
物怖じすることもなくエデンは答えた。
「いずれの王も彼女を愛し、彼女の真の幸せを願っている」
「・・・・・・」
仙水は黙っていた。
彼とて葵に課せられた人界の王という十字架が、どれほど重く辛いものかわかっている。
幾度となく目にした彼女の死は、仙水の脳裏に鮮明に刻まれている。
「葵様は・・・
今、幸せなのですか・・・?」
「・・・ああ。
俺がみた葵の中で一番人間らしい生き方をしているよ」
「・・・・人間らしい生き方だと?
三千年もの間、葵を見守ってきた我らと気まぐれに出会っただけの異世界の王風情がっ!!
そなたらが葵の何を見たというのだ?全てを知ったつもりか?・・・笑わせるなっ!!!」
九条の怒りに満ちた怒鳴り声があたりに響いた。・・・それだけ葵を愛してやまないというのは誰の目からみても明らかだった。
だからこそ誰も九条を止めることが出来ずにいた。そして、落ち着いているエデンをみると今すぐ葵を人界へ連れてくることはないだろうと予想されるのも九条を苛立たせている要因のひとつだった・・・。