神官-1
異世界に通じる回路を通りエデンは人界の王宮へと舞い降りた。空は雷鳴が轟き、海は荒れていた。日中でも太陽が顔を出さないほど分厚い雲が何十年もこの世界を覆い尽くしていた。
見慣れた美しい王宮は主を失って寂しさを漂わせている。
(・・・あいつらもう寝てるか)
広間に足を踏み入れると中庭で空を見上げている漆黒の衣をまとった神官が目に入った。
常に葵の傍を離れず、秘かに彼女に想いを寄せているであろう・・・あの神官だ。
「久しぶりだな九条」
九条と呼ばれた神官は目だけを動かしてエデンを見やった。艶やかな黒髪に夜をうつしたような黒い瞳。哀愁漂う雰囲気は恋人を失ったひとりの男そのものだ。
「葵が見つからなくて焦ってるかと思ったぜ」
「・・・・・・」
九条はまた空を見上げた。
葵の気配を追って彼女を探しているのだろうか。
「・・・見つけたぜ」
その言葉に今までエデンの存在を無視していたかの様な漆黒の神官は目を見開いた。
「・・・・・っ!!
っそれは誠かっ!?エデン殿・・・・・!!!」
エデンに掴みかかった九条の手が震えている。その手を見つめたエデンは・・・これからキュリオたちがその辛さを味わうことになるのだろうと目を閉じた。
九条の声を聞いて数人の神官たちが息を切らせて中庭に集まってきた。
「・・・っ葵様が・・・
エデン殿・・・・・詳しく話を・・・っ・・・」
目頭を熱くさせ涙声のこの神官は物腰柔らかく、雰囲気に見合った泉のように薄い水色の髪をたなびかせている。名を仙水という。
「葵は・・・・・
アオイは、俺のいる世界に生を受けていた。まもなく16になる」
「・・・十六・・・」
神官たちは目を閉じて葵の面影を探しているようだ。おそらく何も変わっていないだろう彼女の笑顔を・・・。
「・・・お前たちが葵を求めるのと同じく、向こうにもアオイを求める者たちがいるんだ」
「・・・・だから何だというのだ」
漆黒の神官はエデンを睨んだ。
「今すぐ葵を返してもらおう」
一刻の猶予も許さないとばかりの気迫でエデンに迫った。
「エデン殿、葵様を求める者がいるとはどういう・・・・」
無益な争いを嫌う仙水はエデンに説明を求めた。