夕-10
「……もう一回呼んでよ……」
「ん〜?」
「『夕』って……ちゃん付けより良いな」
「夕?」
「うん……美夜……」
好きだよ……。
声には出さずに、小さく唇を動かして想いを伝える。
今、伝えたら躰目当てみたいだから……まずはデートに誘ってみよう。
映画はどんなのが好きかな……どんな音楽を聴くかな……知りたい事が沢山ある。
僕は美夜の躰に腕を回し、彼女の胸に顔を埋めて少し早い鼓動を聞きながら、これからの計画を練っていった。
数日後。
「夕也、お前最近おかしいぜ?」
「何が?」
大学内のカフェでお茶を飲んでいると、陽太が向かいに座って僕をまじまじと見ている。
「何がって……わかんねぇけどさぁ、双子の勘?」
ガシガシ頭を掻く陽太の横に朝陽が座る。
「まず、キモチ悪いぐらいに始終ニヤついてる」
鋭い朝陽はしかめっ面で僕を指差した。
「そう?」
そんなつもりは無いけど、美夜の事を考えると……へら。
「ほらぁっ!その顔よっ」
おっと、いけないいけない。
僕は慌てて自分の頬をぺしぺし叩く。
「なぁんだよ?良い事でもあったわけ?」
「陽太には教えないよ」
「んだよっ教えろよ」
「嫌だ」
「ちょっと、陽太。なんか夕也と痴話喧嘩してるみたいよ?」
「だって、今まで隠し事なんてした事なかったのに」
ぶうっと不貞腐れる陽太の頭をよしよし撫でる朝陽。
「夕ちゃ〜ん」
そこに、可愛い美夜の声が響く。
「お待たせん♪」
べたぁっと背中に抱きついてきたのは言わずと知れた美夜。
ただし、以前の美夜では無い。
明るすぎた茶髪は、トーンを落としてブラウンレッドに変わり、お化粧もナチュラルメイク。
服とかは以前のままだが、かなりのイメチェンだ。
「うぇっ?!美夜ちゃん?!」
驚いて中腰になった陽太に、美夜は可愛くも悪魔的な笑顔を向けた。