龍の祝福-1
夕方、暗い空に稲光が走った。
直後、ドーンという腹の底に響くような大きな音が辺りに轟く。
この世のものではない、何か龍が起こした雷鳴のような、そんな不吉な音だった。
いつもの場所での俺の”遊び”は今日は不発に終わり、雨まで降ってきた。
俺は裏通りの軒先で雨宿りをしていると、俺のご同輩が女を口説いているのが見えた。
女は大学生くらいだろうか。薄い栗色の髪を後ろで結ってポニーテールにしている。
角ばったフレームの洒落たメガネをかけたその瞳は、はっきりした切れ長の二重で、形容するならインテリ美女という感じに見える。
そのインテリ美女が、彼女にはあまり似つかわしくないような男三人に囲まれていた。
やや太めの男、中肉中背の男、長身の男。共通しているのは三人とも軽薄そうな所だろうか。
もっとも、俺は人の事を言えた柄ではない。
「よぅ、お姉ちゃんさァ、雨も降ってきたし、どっか雨宿りしに行こうぜェ?」
「あたし、今ここで雨宿りしてるところですし」
「ここに居たって、何も面白いことないだろう? だからさァ……」
三人の男は、代わる代わる女にあれやこれやとまくし立てて、どうにか連れて行こうとしている。
こういった場合、女は恐怖心を抱いて怖がったり、逃げ出そうとしたりするものだが、この女はどういう訳か無反応で無表情だった。
睨まれたら、相手の心が凍てついてしまうような、そんな瞳をしているように見える。
只の学生には思えなかった。その女の瞳が数十メートル離れた俺の顔を見た。
一瞬見てから、また顔をそむけて、ただ無表情で正面を見ている。