戻るべき処-5
「なんだ、そんなお洒落な格好してくるなら、俺も少しは考えるんだったな」
「あら、あなたはそれでいいと思うわ」
夜。初めて彼女を見かけた場所。
ナオコは前に会った時とは違い、丈の長めのスカートに黒のタイツにハイヒールと、大人の色気を醸しだすような品のある格好をしている。
俺は相変わらずの軽めのパンクファッション風の格好で、シルバーのアクセサリーを首にかけ指につけているので、ナオコと並ぶと異様なカップルに見えるだろう。
「しかし、今日は随分お綺麗ですね。さすがに、俺が見とれただけのことはあるな」
「そう言ってくれたから、頑張ってお洒落してきたのよ」
「そりゃあ、随分光栄だな。十日もメール来なかったから、もう諦めてたんスよ」
「……ごめんね、ちょっと色々あって」
そうなんだろうと思ったが、俺はナツコの言う、”色々”には触れないことにした。
いちいちプライベートに踏み込むつもりはないし、必要があれば彼女が話すだろう。
「じゃあ、これからどこに行きます? ドレスコードがあるような店は、無理だけど」
「フフ、そうね。ちょっと、静かな所がいいかな」
「静かな所、ね……」
ここは昼夜を問わず忙しい街なので、静かな場所というのはなかなか探すのは難しい。
まさか、いきなり俺の部屋、という訳にもいかないだろう。
「じゃあ……そうだな、お酒とか飲めます?」
「そうね、少しだけ、飲もうかしら」
俺自身はあまり酒は飲まない。嫌いじゃないが、酔って素面でなくなるのが嫌だった。
だが、今日のナオコには、多少のアルコールが必要なような気がする。
俺は行きつけのバーに行く事にした。ここなら、静かに話は出来るだろう。
店に着くと、俺もナオコも適当なカクテルを頼んだ。
俺はチビチビと、ナオコは結構なペースで飲んでしまっている。
話は弾んだが、不意にナオコが黙り込んで、遠くを見つめるような顔をする。