戻るべき処-3
「ま、あなたみたいな人種の人には、そうでないと不都合でしょうね」
「誤解されてるなア。俺は、結婚しててもしてなくても、皆で楽しくやりましょうって言ってるだけですよ」
「楽しく、ね……」
そういうと、少しだけナオコは寂しそうな表情を俺に見せた。
電話の時にも見せた憂いを帯びた顔は、不思議とセクシーで俺を惹きつける。
「そうそう。じゃ、食べ終わった後は少し遊びましょうよ。時間は空いてるんでしょう? 体動かすのと、カラオケと、どっちがいいですか?」
「あなたって本当に強引ねェ……わたしも、もう少しあなたみたいだったら悩まなくていいのかな」
「失礼しちゃうな、俺には、何も悩みはないって? 今、カラオケとどっちがいいのか悩んでるでしょ」
俺は、少しおどけて大げさにそんな事を言ってみせた。
ナオコは呆れたように苦笑した後に、体を少し動かしたいかな、と答えた。
***
俺達はとあるスポーツ総合施設に来た。
ボウリング、バトミントン、ダーツ、フットサル等々いろんなスポーツが出来る場所だ。
ボウリング以外は満室でしばらく待たないと出来ないので、とりあえずボウリングをすることにした。
「ボウリングなんて、何年ぶりかしらねぇ」
ナオコがボールを持ち上げ、たどたどしくピンに向かって投げる。
すると、ボールは中程で大きく逸れてサイドの溝に落ちていった。ガターである。
俺は手を叩いて笑ってやると、ナオコは怒ったふりをして手を振り上げた。
俺もさほど上手くはない。7本とか、8本とか、中途半端なスコアが並んでいる。
楽しければ、なんでもいいのだ。俺もナオコも、惨憺たるスコアでゲームが終わった。
「あなた、誘った割りにはへたくそなのねェ」
「ハハ、ナオコさん程じゃあないですよ。じゃ、次は何をします?」
「そろそろわたしは、帰らなきゃ。もう日が暮れてきちゃったし」
「俺は、日が暮れても問題無いんだけどな?」
俺はそれとなく、座っているナオコの腰に手を回して、体を寄せようとした。
ナオコは体を一瞬ビクリとさせて、少し間をおいてから、俺の手から逃れるようにゆっくりと体を離した。
ゆっくりと離したのは、俺を傷つけないようにとの彼女なりの大人の配慮だろうか。
彼女は少しだけ顔を赤らめて、俯いている。
「ねぇ、ユウジ君。男の人って、同時に複数の女性を愛せるものなのかな?」
「こりゃあ、難問だな。俺は、こうやってナオコさんと遊んでるのも愛だと思ってるから、答えとしてはイエスになるのかな。でも、ナオコさんにとって、愛って何なんですか?」
「何って、そりゃあ……」
「セックスの事?」
俺が言うと、ナオコはポカリと軽く俺の頭を叩いて立ち上がった。
「今日、本当に楽しかったわ。一応感謝しとかなきゃね」
「あれ〜? 帰っちゃうんですか? じゃあ、次はいつ会えます?」
「次って、えっとそれは……」
「じゃ、せめてメルアド教えてくださいよ。さっきの話も結論出てないし、それくらいはいいでしょう?」
「もう、参ったな。どうすればいいのかしら」
「それなら、俺のメルアド教えますから、メールくださいよ。俺、待ってますから」