戻るべき処-2
「このあたりに美味しくて安いパスタの店あるんスけど、行きましょうよナオコさん、俺奢りますから」
「しょうがないわね……でも、奢ってもらわなくても結構だから」
ナオコは俺を見つめて、毅然として言った。
若造に施しを受けるなど御免被る、という彼女の強い意志が見える。
俺は最初からそういうタイプの女だろうと予想していたので、内心ニヤリとした。
この街では、男も女も騙し合いである。
騙し、騙され、この街で遊んでいる。俺もそうやって獲物を探して遊んでいる一人だ。
ナオコは、きっとそういう世界とはまるで縁のないような女に違いなかった。
そういう女を見かけると、何故だか少しホッとするような気がした。
俺はナオコの気が変わらないうちに、早速店に案内することにした。
***
「あら、このパスタ本当に美味しいわ。嘘だったらあなたに文句言って帰ろうかと思ってたのにね」
ナオコが海鮮とキノコを散りばめたペペロンチーノを口に運んでから言った。
俺は食にこだわりがないので、美味しいかどうか判別しかねるのだが、この街ではそれなりに知られた店で、女とランチとなると度々訪れていた。
俺にとっては、味よりも安いのが何より有りがたい。
「来て良かったでしょう。少しは、信用してもらえましたかね?」
「まぁ、そのまま帰るよりはマシだったかもしれないわね。でも、君はもっと他に誘うべき相手がいるんじゃないの?」
「ハハ、いたらいいんスけどね。それより、ナオコさんの友達はどうかされたんですか?」
「急用だって、それだけ。イヤよね。ま、だいたい想像つくけど」
「へぇ、どんな?」
「男と、不倫してるのよ。信じられないわよね」
ナオコの友人は人妻で、年下の男と不倫しているのを自慢されるのだそうだ。
彼女は結婚しているのに、わざわざ家庭を壊そうとする行動が理解できないと憤慨している。
ナオコ自身も人妻で、あるいは子供もいるかもしれないが、俺は詮索しなかった。
俺の”遊び”には、そういうプライベートは関係ないのである。
その時々でうまく遊べればそれでいいし、プライベートに関与するつもりも毛頭ない。
「結婚って、つまるところたかが契約の一種でしょう? 不倫と言えば聞こえは悪いが、健全な男女が出会えばそういう関係になるのは、自然じゃないですか?」
ナオコは俺の発言に対して、えっ、という驚きの顔を見せた。
真面目そうな彼女には、こんな考え方は異端過ぎて受け入れられないのだろう。
その後で、少し納得したような風に言った。