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雑踏の片隅で
【その他 官能小説】

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佇む男-1

 信号が赤から青に変わる。
 その瞬間、数え切れない程の人間が、交錯していく。
 男も女も、老いも若きも、富める者も貧しい者も、外国人さえも、黙々とただ交錯していく。
 俺はその様子を、雑踏の片隅でただ黙って見つめていた。
 見上げれば、高層ビル。この周囲は雑多な店で溢れかえっており、朝も夜も関係がない。
 
 実家での記憶は希薄だった。
 田舎でもなく都会でもないような場所で、普通の学生生活を送っていたように思う。
 別段、特筆するようなことは無く、表面上は問題は何も起こってはいない。
 高校の終わりの頃までは。

 物心ついた頃に、自分の家庭は少々おかしいのではないかと思い始めた。
 家族で旅行、などという事をしたことがない。
 金が無いというのではなく、そういう雰囲気が皆無だった。
 親父とお袋は、常に事務的な口調で必要最小限の会話しかすることがない。
 そんな家族だったので、俺も両親とあまり話すことなどない。
 皆で食事をすることすら、ほとんどなかった。

 親父もお袋も教師だった。
 仕事に真面目で忙しい二人だから、こうなるのはしょうがないんだろうと思っていた。
 だが、本当の事情は少し違っていたようだ。
 親父が不倫をした。俺が高三の時だ。相手は俺と同じ年の女子高生だった。
 その件で親父は懲戒処分を受け、そのまま教員を退職した。
 その日に親父は家に戻らず、何処かに消え、俺は親父とそれきり会っていない。
 お袋は、親父といつの間にか離婚をしていた。
 親父が消えたにもかかわらず、反応は淡々としていてさほど悲しんでいる様子も無い。
 
 俺はお袋に引き取られ、とりあえず大学受験に向けて勉強をしていたが、止めた。
 離婚から半年ほどして、お袋が突然再婚をした。
 後で知ったが、離婚して再婚するには、法律上半年の期間が必要なのだそうだ。
 きっちり半年後に再婚したのだから、笑い出したくなる。
 あなたの為でもあるのよ、などとお袋は俺に申し訳程度の説明をしたが、その時の俺にはもうどうでもいい事だった。
 要はお袋も不倫をしていたのだろう。相手はお袋と一回りは年下の男だった。
 
 夜、お袋のえげつない哭き声が俺の部屋まで聞こえる。
 肉と肉がぶつかり合う音と、お袋を責める男の怒声と、お袋の悦びの声が交じり合っている。
 俺は勃起していた。
 責め立てられ、絶頂に至ったお袋の咆哮を聞きながら勃起を扱き、俺は射精した。
 これまでの鬱屈したしがらみを、精液ごと放出してやった。
 

 そうして翌日、俺は家を出た。


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