社長室での淫事-6
本社から電車で30分ほどの場所にあるマヤの担当教室。ここは他の地域に比べて裕福な層が多く、保護者の職業も医師や会社経営者などが大半だった。大きな家に住み、ハウスキーパーを雇い、母親たちは潤沢な金を元に自由な暮しを満喫する。子供を学校のほかに大量の習い事に通わせ、空いた時間で年の離れた若い不倫相手に溺れる母親もいれば、クレジットカードで毎月100万以上の買い物をする母親もいる。表面上は上品でそつのない人間関係を紡いでいる母親たちの、その裏側の顔をマヤはよく知っている。
手早く着替えを済ませると、開けたばかりの教室のドアが乱暴にノックされる。ドアの外で派手な服装をした女、が香水の匂いを振りまきながら「どうなってんのよ!?」と大声をあげた。
金髪に近い色のロングヘア、室内でもつけたままのサングラス。来年の1月に中学受験をする山岸マモルという生徒の母親だった。何度行っても教室に来るときにアポイントを取らず、いきなり来ては文句ばかり言う。こういう母親は意外に多い。
「ああ、マモルくんのお母さん。こんにちは、どうぞお掛けになってください」
マヤが席を勧めると、母親は椅子が壊れてしまいそうなぐらいにドン、と大きな音をたてながら腰を下ろした。
「ちょっと、コレ見てよ。ねえ、毎月高い月謝払ってるのに、この模試の結果……A中学の合格率20%ってどういうこと!?」
「ああ、少し拝見させていただいてよろしいですか?」
頭から湯気でも出しそうな母親からプリントを受け取る。算数も国語も理科も、すべての結果が前回の模試よりも上がっている。マモルは器用なほうではないが、こつこつと真面目に努力するタイプの生徒だった。母親が望むA中学は私立の中でもハイペースで学習内容を詰め込み、少しでも早く大学受験対策に取り組ませようとする学校なので、誰の目から見てもマモルには向いていない。レベルも合っていないが、校風もおそらく合わないだろうと以前からそれを何度も母親に言って聞かせ、かわりに公立中学に進学することも提案してみたが、まるで聞いてもらえない。
「合う、合わないって、そんなこと聞いてないのよ。アナタのところは合格させることが仕事でしょ? まったく、子供も育てたことのない女の言うことなんか聞きたくないわ」
「そうですか……でも、マモルくんはお友達と離れるのも嫌がっているようでしたし、同じ私立を受験するにしても、もう少しのびのびとした校風のところが……」
「うるさいわね。次の模試がまた来月あるのよ、そのときまでに合格圏内に入れるように、どうにかしておいてよね。追加講習でお金が必要だったら言ってくれればいいわよ。ああ、もう、マモルがちゃんと合格しなかったら旦那の母親からまたごちゃごちゃ言われるのはワタシなんだから! じゃあ、また来るわ」
散々喚き散らして、マモルの母親は教室を出て行った。ちょうど入れ違いで別の生徒の母親が入ってくる。少し眉をひそめながら、階段を下りていくマモルの母親の背中をちらりと見て、マヤのほうへと視線を戻す。