社長室での淫事-5
ギッ、と音がして背後のドアが開く。先輩の女子社員たち3人が入ってきたところだった。ほとんどが30代から40代以上の社員たちのなかで、25歳のマヤは飛びぬけて若い。3人は見下した目でマヤを取り囲む。少しずつ距離を詰めながら、マヤを睨みつけてくる。
「な、なんですか?」
「なんですか、だって。ねえ、恥ずかしくないの? 会議終わってすぐに社長室であんな声出してさ……」
「そうだよ、あんただけ毎週のノルマだってほとんど無いらしいじゃない。社長に可愛がってもらうために体を差し出すなんて、そんなのおかしいと思わないの?」
「ほんと、ムカツク。あんたの教室だけ教材だって備品だって、社長の裁量で何でも入れてもらえるんでしょ? こっちは間に合わない分は全部自腹でやってんだっつーの」
たしかにマヤは社長から優遇されていた。でもそれに見合う以上のことを、マヤは要求され続けている。逃げることもできず、逆らうこともできない。がんじがらめの中で体をおもちゃにされる屈辱がわかるのか、と言い返したいのに、嗚咽が邪魔して言葉にならなかった。さらに先輩たちの声が重なる。
「もうさ、塾なんてやめて風俗嬢にでもなれば? そっちのほうが似合ってるよ」
「ほんと、ほんと。ちょっと若くて顔が可愛いからって調子乗ってるよね。その分じゃあ、いつか生徒の父親にでも手出すんじゃないの?」
「あはは、有り得るよね。変なうわさが立つ前に、さっさと辞めちゃいなよ。会社で色気振りまいてるからさあ、男の社員なんてみーんなあんたのことばっかり見てる。目ざわりなんだよ、消えろ」
掃除用なのか、バケツに汲み置きされていた水を頭からぶっかけられた。水浸しになったマヤを見て、先輩たちは声をそろえてげらげらと笑いながらトイレの個室に入って行った。
鞄の中からハンカチを出し、鏡を見ながら拭えるだけの水分を拭いとる。泣いている時間は無い。まだ雫のしたたる髪をゴムでぐるりとまとめ、濡れたスーツのままマヤは駆けだした。着替えは教室に置いてある。早く着替えないと風邪をひいてしまう。また社長に見つかって怒鳴られるのもやっかいだ。教室に行きさえすればどうにかなる。
本社を出て、すれ違う人々から不思議なものでも見るような視線を浴びながら、マヤはほんの少し口元を緩めた。こんな仕打ちを受けながらも会社を辞めないのには、給料のこと以外にもうひとつ大切な理由がある。そしてそれは、いまのマヤにとって唯一の楽しみでもあった。