異形愛染-3
しばらくすると集めておいた薪も無くなり、囲炉裏の火も小さくなってくる。
女は囲炉裏に見を乗り出すと、ほんのり燃える炎に片手をかざしだした。そうしておそらく、自分の掌が温まると、懐に抱えた荷物に当てがい、その荷物を愛しそうに撫でまわしていた。
しばらくして手が冷えて来ると、また炎に手をかざし、掌を暖めてまた荷物を撫でまわす。
何やら抱えている荷物が冷え込むのを恐れているのか、そんなしぐさを繰り返していた。
なんだか変った事をする女だ。と、父親も息子も、うとうとしながらぼんやりと女のしぐさを眺めて居たが。
又しばらくすると。薪の炎はさらに小さくなり、掌を暖めるのに十分では無くなって来たのだろうか。女の奇妙な動作も忙しくなる。全く持ってせわしない様子である。
一体全体、そんなに焦って何を暖めているのやら、いったい何を懐に隠しているのやら。
どうやら猟師達も気になって眠れない様子である。
そうこうしているうちに、とうとう囲炉裏の火も消えかかり、オレンジ色の炭火だけが残るだけになってしまうと、女は意を決したかのように懐に収めていた荷物を、着物の中から取り出した。
幾重にも包(くる)めていた布キレをほぐし、中からサッカーボールほどの物を取り出すと、その物を直(じか)に暖めんとばかりに、残った炭火の上へと、かざし始める。
猟師の親子は、女がそれほどに大切に抱え込んでいた物とは、いったい何だったのか、興味津々と言ったところで有ったろう。身を乗り出してその物を覗き込んでいた。
薄っすらとした炭火の炎に照らされて、女の持っている物がはっきりとその姿を、二人の目にも映し出す。
そして、それをみた瞬間、二人の背筋尾が途端に凍りついた。
それは、一抱えほどもある男の生首だった。しかもその生首は恐ろしい形相をして、鋭い牙を持ち、額の辺りから二本の角らしき物を生やした鬼の生首であった。
いかに頑強な猟師と言えども、そんな物を見て腰の一つも抜かさない訳はない。
”!!ギヤァーーーーーアッ!!”
父親と息子、二人して心臓が止まるほどの大きな叫び声を上げると。持ち合わせた荷物も放り出したまま、恐れ慄いて山小屋から飛び出し、明けやらぬ漆黒の森の中へと、一目散に逃げ出して行ったとさ。