愛を求めぬ王2-1
キュリオがエデンやマダラ、ティーダと話している場所から少しはなれたエクシスとアオイ。
以前エクシスが悠久を訪れたときにアオイがハープを弾いた、あの噴水の淵にふたりは腰掛けた。
風の精霊がエクシスの耳元でエデンの話を伝えている。頷きもせずエクシスは黙って聞いていた。
隣でアオイは噴水のなかに手を入れ、その冷たさにはしゃいでいた。それを静かに見つめていたエクシスは・・・
同じく噴水に手を入れ・・・アオイの小さな手を握りしめた。冷たい水の中で感じるアオイのぬくもり・・・
驚いたアオイは頬を染めてエクシスを見つめた。
「エクシス・・・ど、どうしたの?」
『・・・お前に触れるのは夢以外では初めてだな・・・』
エクシスの綺麗な唇が弧を描き、アオイの心臓は大きく跳ね上がった。
「エクシス・・・」
握られた手をアオイも強く握り返した。
他人に執着することなく、自分をさらけだすこともなかったエクシス。王になってから千年以上も・・・ただ静かに流れる時を見つめてきた。
『・・・アオイは我と似ていたのだな』
「・・・似ていた?」
エクシスは風の精霊が運んできたエデンの話の中の"葵"のことを言っていた。
(・・・・愛を求めぬ王・・・・)
『・・・我はそなたに出会って初めて・・・愛されたいという願望をもった・・・』
『・・・アオイは我にとって唯一の存在だと、愛だと確信している・・・』
エクシスの瞳は深い切なさを含んでいて、アオイは涙があふれそうになった。
エクシスの濡れた右手をアオイは両手で包み胸元で握りしめ、
「・・・ありがとうエクシス・・・」
そう呟いたアオイの瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
(キュリオもエクシスもティーダ様も・・・何も持たないこんな私を好きだと言ってくれる・・・)
(私も王なら同じくらいの時を共に過ごせるはず・・・なのに・・・どうして?こんなに胸が苦しいの・・・?)
エクシスは左手でアオイの頬に触れ、涙をぬぐった。
だが、アオイの涙は止まらない・・・。
この時のアオイの涙は・・・
人界の王である"葵"のものだとは二人は気が付かなかった。