南風之宮にて 1-1
ハヅルの鳥態は、小さな真っ白い猛禽の姿をしている。
そんなことが問題を呼び起こすとは、ハヅルも周囲の者も考えもしていなかった。
※※※
「軽はずみだったな」
ツミの頭領エナガの重々しい口調に、ハヅルは居心地悪く目を泳がせた。
王女のお忍びでの外出に賊の襲撃を受け、はからずも変化して事態を収拾させた事件から一週間後のことである。
変化の瞬間を見たのは王女とエイの二人だけだったが、王女の腕にとまり、彼女を守る力を放った場面は通り中の人間が目撃した。
いや、彼らが見たのは『白い鳥を操る王女』の姿だ。
ロンダーン王家の祖をこの地に導いた神の使い鳥と同じ、小さな白い猛禽。
それを、世継ぎの王子の妹王女が従え、使役していた。
ただの妹ではなく、長子制をとるロンダーン王家で、王子と同じ日に生まれた双子の姫が、だ。
王女は国民への露出は少ないながらも、その美しさと聡明さから国内での人気は高い。
また、軍びいきを隠さず軍部に絶大な人気を誇る王子に対して、貴族からひそかな支持を得ている。
加えて、王の代理で外交行事に出席することが多いために、国外でも顔が広い。
言ってしまえば、王位継承の火種になりかねない姫なのだ。
そんな王女が、使わしめに選ばれたかのような姿を市民や警備兵にさらしてしまったのだ。
噂はまたたく間に王都をめぐり、やがてまことしやかに囁くものが現れた。
真に世継ぎの君にふさわしいのはもしかして……と。
むろん、ただの噂だ。だがこうした噂は広まりやすく、利用もされやすいものだ。
常々王子の軍びいきに不満を覚えているものが、よからぬことを考えないとも限らない。
王宮は一見静かなようで、水面下では騒がしくなってきていた。
「お前も、ご兄妹の扱いに王が苦慮しているのは知っているだろう」
やれやれと疲れたように言われた。
「すみません……」
「王女からはお前に咎めだてするなと言われたがな。変化の必要は本当にあったのか。よーく考えるように」
「はあい」
ハヅルは珍しく悄然としていた。彼女なりに落ち込んでいたのだ。
街中で変化したこと自体は、どこかで大したことではないと思っていた。
掟破りの罪悪感も、自分自身の気持ちの問題でしかないと。
だが、守護するべき王女に迷惑をかける結果になってしまった。
彼女は肩を落としたまま会議の間を退出した。