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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 1-6


 ハヅルは四日前から、王女の神殿参拝の供として、ロンダーンの南方神殿『南風之宮』に来ていた。

 今日、世界に古代の神々の影響は薄れ、神秘の力はわずかに各地の神殿にその名残を残すのみとなっている。
 神殿は星宿を読み解き、ときおり出現する魔族を封じるのが主な仕事とされていた。

 ロンダーンには全国に無数の神殿があるが、国土の四方に配置された四つの神殿は、建国以前からの祖神を祀るとして、王家によって直轄されている。
 時代によっては、未婚の王族が四方のいずれかの宮の司として派遣されるのが不文律ともなっていた。
 南風之宮では、先々代の司を先代の王の従姉姫が務めていたという。

 南風之宮の司は王女を気に入っているようで、何か行事があるごとに王女を指名して招待状が送られてくる。
 全てにはとても出席できないので、よほど重要な行事でないかぎりは代理を送るのが常だ。
 しかし今回に関しては渡りに船だった。 騒がしい王都にも、王女本人の姿がなければどうしようもない。
 そういうわけで、もともとは代理の派遣を予定していたものを、急遽王女本人が出席することになったのだ。

 行事自体は一週間も後なのだが、それに先だっての準備の儀式がいくつか必要で、こうして何日も前から滞在していた。

 宮の司の歓待ぶりは、過剰と言ってもよいほど手厚いものだった。
 朝食会、午餐、晩餐と、神域とも思えぬ贅沢な趣向をこらした食事や演芸が催され、日中のわずかな空き時間にも王女に挨拶をしたいという近隣の有力者が引きも切らずに訪れてくる。王宮にいるよりもよほど華やかなほどだ。
 王女は公務としてそつなくこなしてはいたが、ハヅルの目にも少々疲れを感じ始めているのがわかった。

「どうせ、姫を宮の司の次期に据えて、修築の予算増額でも狙ってるんです」

 四方のどの神殿を訪れてもそうした意図は見え隠れするのが常だったが、南風之宮は特に顕著だった。
 ただ、それも詮無いことではあった。
 この南風之宮では、つい一昨年に傘下にある国境沿いの町のいくつかが隣国の侵略に遭ったこともあり、参拝客や奉納から得られる収入が激減している。
 昨年などは年中神事のいくつかを中止、規模を縮小せざるをえなかったくらいだ。

 彼女の小声での言葉に、王女は否定はせず、ただ苦笑してみせた。


 ハヅルは神殿が苦手だ。
 神殿の多くは、魔族の力を減じる地形を選んで建築されており、南風之宮も例外ではない。
 ツミの一族の能力はどうやら一部魔族に由来するものもあるようで、神殿の立地する、結界と呼ばれる地形の内部ではうまく変化ができないのだ。
 人間態のときの身体能力にはいささかの衰えもないが、いざというときに変化して力を使えない状況というのはなかなか緊張を強いられるものだった。

 加えてもう一つ。
 神殿が、というよりも、この南風之宮を苦手とする理由がハヅルにはあった。



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