名も無き王のささやかな企み-6
両肩を落としたまま、とぼとぼと私の後ろをついて歩く隆。
私が立ち止まった事にも気づかないまま、
やるせなさそうに何度も溜息をつくその姿は、
さっきまであんなにも男らしかったのが嘘みたいに、
小さく寂しそうなひとりの男の子にしか見えなかった。
「はぁ………… こらっ! いつまでしょぼくれてるのよっ」
「え? あ、あれ? いつの間に追い越して…………」
その言葉に顔をあげると、慌てた様子で私の姿を探す隆。
私は呆れた様子で隆を見ると、頬を膨らませては隆のお腹を軽く叩いた。
「しっかりしろ! あんた私の………… か、彼氏なんでしょ?」
「えっ? あ、うんっ」
「こんな近くにいるのに………… 簡単に見失ったりしないでよね?」
「ご、ごめんっ…… 俺っ…………」
申し訳なさそうに口籠もりながら、けれど、どこか嬉しそうな表情で私を見る隆。
私はと言うと、慣れない言葉を口にした事ですっかり頬を赤く染めているけれど、
屈託無い隆の笑顔にどこか幼き日の面影を見ては、
自然と心が落ち着きを取り戻した。
「…………歩きすぎて足痛い」
「えっ? だ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないっ …………だから …………お、おんぶしてっ」
「お、おんぶ? えとっ あ、ああっ……」
広くて大きな隆の背中。
そう言えば昔はよく私がこうして隆をおぶっていたように思う。
「いつの間にか私を背負えるくらいおっきくなってたんだね…………」
「え、なに? 聞こえなかった……」
「……くす 何でも無いわよ…………」
八月──私は二つ年下の幼なじみである隆と交際をはじめた。
隆は相変わらず私の事をお姉ちゃんと呼ぶけれど、
私は近いうちに『夏樹』と呼ばせようと心の何処かで画策している。
だって彼氏に名前で呼んでもらう事が、小さい頃から私の夢だったのだから……