名も無き王のささやかな企み-5
「あ、あのさ姉ちゃん……」
「なぁに?」
「これで俺たち…… その…………」
「何よ? はっきり言いなさい?」
祭りの後の静けさ。
人影まばらな商店街をゆっくりと歩きながら家路に就くふたり。
「つ、付き合ってるって思っていいのかな?」
「…………知らない」
素っ気ない私の返事に、
ちょっとだけ泣きそうな顔をした隆が可愛く見えた。
「冗談よ…… べ、別にそう思いたければそれで………… いいんじゃない?」
「そんな思いたければって………… それなら俺、何年も前から姉ちゃんの彼氏じゃん」
「ばっ…… はぁ………… よくそんな事恥ずかしげもなく言えるわね……」
「だ、だって…… もう思い出せないくらい昔から好きだからさ…………」
私の意地悪な言葉にもめげず、
平気で恥ずかしげもなく想いを吐き出す隆。
「よ、よくそんな事が言えるわね? いままで何人も他の女とつきあってたクセに……」
「そ、それはっ………… だって…… 叶うわけ無いと思ってたから……」
そう言って頭を掻きながらも、
ギュッと私の手を取り引き寄せると、
「そ、その変わり! 色々姉ちゃんを悦ばせるためのテクニックは身につけたよ!!!」
なんてサムアップしながらそんな事を自慢気にほざくので、
私は手を振りほどき、力一杯隆の頭にゲンコツを落とした。
「ってぇ…………」
「馬鹿なの? それで私が喜ぶとでも思うの?」
「いや、喜ばせるんじゃなくて…… 悦ばせるつもりで………… いってぇぇ!」
「はぁ………… ホントこれだから男って…………」
私は大きな溜息をつくと、スタスタと隆の前を歩いた。
「ま、待ってよっ! ごめんっ 冗談だってばっ!!!」
「ふんっ 冗談って言っても事実は変わらないでしょ?」
「そ、そうだけどっ それはその…………」
付き合い始めてわずか一時間あまり。
早くも私は醜い嫉妬に心をもやもやさせていた。