愛を求めぬ王-1
「さて・・・何から話そうか」
エデンはアオイを見つめているキュリオに話を切り出した。
「私がアオイを手放すわけがないだろう」
キュリオは冷え切った目をエデンに目を向けた。邪魔者を排除しようとしているような眼つきだ。
「・・・キュリオ殿・・・
気持ちはわかるが、彼女は本来・・・」
説得しようとするマダラをエデンが止めた。
「人界の王だった頃の葵の話を聞いてもらいたい。最後まで人間を愛し、信じ・・・命を落とした彼女の話を・・・」
キュリオの肩がわずかに動いた。
エデンの言葉の裏に"裏切りによるアオイの死"を匂わせるものがあったからだ。
エデンはティーダやマダラに話したように、全てを語った。
人界が平和だったころは葵も幸せそうだったこと。全てを平等に愛し・・・大地を浄化して破壊されたものを蘇らせる葵を、やがて人間は邪見にし始めたこと・・・。
人間の行き過ぎた愚行により天変地異が起き、葵は世界を包む結界を生成し全てを守ろうと最後まで戦った立派な王だとエデンは言った。
ティーダは俯いている。
全てを捧げて守ろうとした民に裏切られ、それでも希望を捨てなかった葵があまりにも不憫すぎて・・・目頭が熱くなり右手で顔を覆った。
「人界の王としての記憶が戻れば・・・彼女はまっさきに人界へ帰ることを考えるだろう」
「葵の願いは男と幸せになることではない・・・人界に生きるもの全てを愛し、守ることだ」
「・・・ならば
誰がアオイを愛する・・・?
アオイが泣いているとき、倒れてしまいそうなとき・・・誰が支えるというのだ・・・」
「・・・人界の王は愛されることを望んでいるわけではない。ただ無条件に彼女が全てを愛するだけのこと」
苛立ったようにキュリオがエデンを見やった。
「・・・ならばお前に問う・・・
そのように理不尽な・・・全てを背負うだけの人界の王をどう思う」
「・・・・」
エデンは答えることが出来きずに沈黙した。かつての葵は不満も言わず、愛を欲しがることもなかった。
ただ・・・時折見せる悲しげな表情が何だったのか・・・エデンはわからずにいた。