画面の中の恋人-20
「職場のことでも、俺のことでも、すげえ悩んでて、悪いなって思ってたけど、ずっと乃理子が俺のこと怒ってるんだって思ってて……でもほら、コメントとか入れると悦んでくれただろ? メッセージを始めたときも、すげえ楽しそうで、なんか俺も嬉しくなって……」
「それは写真交換なんてできないわよね……」
「そう、あれは本当にどうしようかと思って、でも……あ、うん、ほんと、ごめん……メッセージみたいにゆっくり考えながらだったら、乃理子が喜ぶようなことも言えるんだけど、だめだな、直接しゃべるとこんなふうになって……もう、許してくれないと思うけど、俺、ほんとにおまえのこと大事に思ってた。ごめん……」
同い年なのに、まるで子供のようにうつむいて鼻をすすりあげる明彦の腕をとって、乃理子はゆっくりと立ち上がった。花束を両手で受け取り、そのかぐわしい香りを胸一杯に吸い込む。
「もういいわ。あーあ、なんだか気が抜けてお腹すいちゃった。話は後にしましょう。ちゃんとイタリアンレストラン予約してくれてるんでしょ?」
「う、うん、もちろんだ。奮発して一番高いコース頼んでるよ」
「じゃ、行きましょうか。名無男さん?」
花束を右手で抱き、左手を明彦の腕に絡ませる。顔を見合わせて大きな声でげらげらと笑いながら、ふたりは歩幅をそろえて歩き始めた。もう一度、わたしたちやりなおせるよね。乃理子は、帰ったら真っ先にあの離婚届を破り捨てようと心に誓った。
(おわり)