画面の中の恋人-19
「明彦……どうして……?」
眉尻を下げたバツの悪そうな、夫、明彦の顔がそこにあった。明彦は頭をぽりぽりと掻きながら、小さな声で「少し話そう」と言った。
もう一度ベンチに座り直す。せっかく席が空くと思っていたカップルたちの舌打ちが聞こえる。頭が混乱して、何から言えばいいのかわからなくなった。明彦が静かに頭を下げた。
「ごめん。だますようなことして、本当に悪かった。おれ、馬鹿だからこんなことしか思いつかなくて……でも、なんか、ほんとどうしていいかわかんなくて……」
「あ、明彦、本当にあなたが名無男なの?」
ただでさえ口下手な明彦は、必死でいままでのことを説明しようとしていたが、話の前後関係がばらばらな上に興奮してよけいにわからなくなるので、話の途中で何度も乃理子が内容を整理しながら聞かなくてはならなかった。
明彦が乃理子のブログを知ったのは、ちょっとした偶然だった。ある日、どうしても必要な書類が見当たらなくて、もしかして乃理子の部屋に紛れ込んでいないかと、乃理子が入浴中に部屋に入ったことがあったらしい。
「それでさ、ほんとに、見るつもりなんて無かったんだけど、ほら、なんとなくパソコンの画面見たら……あの、ブログの画面でさ……」
「ああ……」
たしかに、ブログ画面にアクセスしたまま放置したことも珍しくは無かった。それを見た明彦は、何を書いているのか興味をそそられて、自分のパソコンから検索してアクセスし、当たり障りのないコメントを入れるようになったという。
「ほら、俺たち、こんなふうになって……まともに話なんかできる状態じゃなかっただろ? でも、嘘臭いって思われそうだけど、なんていうか、乃理子のことずっと気になっててさ……なら、直接言えばいいって思われるかもしれないけど、ほら、そんな空気じゃなかったし……」
「そう……」