画面の中の恋人-18
日曜日の夕方、電車の中は幸せそうな親子連れや恋人たちが溢れていた。きゃあきゃあと楽しそうな声を聞きながら、乃理子は車窓を流れる風景だけをじっと見ていた。夕暮れが迫る街並みにはキラキラと照明が灯りはじめ、昼間とは違う表情に変わっていく。心はもう波立つこともなく、ただ静かに名無男との不思議な関係に思いを馳せた。
午後5時半を少し過ぎたところで待ち合わせ場所に着いた。さすがに有名スポットだけあって、若いカップルたちで混雑している。まだ時間には早すぎる。乃理子は時間を確認した後、すぐ近くのコーヒーショップでカフェオレを頼み、それを持ったまま時計台の真下にあるベンチに座った。
日が暮れた後、しんしんと寒さが忍び寄ってくる。昼間は暑いくらいだったのに……半袖のワンピースで来たことを後悔しながら温かいカフェオレを啜った。名無男はいったいどんなひとなんだろう。写真を断るくらいだから、ものすごく容姿にコンプレックスがあるひとなのだろうか。ちらっと頭の中で漫画に出てくる太っちょでいじめっ子のキャラクターを想像して、乃理子はひとり笑った。
「あの……」
急に声をかけられて、手に持ったカフェオレを落としそうになる。顔をあげると目の前に色とりどりの花束が突き出されていた。それは、赤、黄色、白、ピンク……カラフルな花たちが何十本もまとめられたもので、乃理子が名無男に話した理想の花束そのものだった。
「名無男さん、ですか?」
花束で視界を遮られ、顔が見えない。足元の革靴とチャコールグレイのスーツの膝下だけが確認できた。相手は答えない。
「わたしです。ミコです。今日はありがとう……」
花束の隙間から、ようやく相手の顔が見えた。乃理子は言葉を失い、まだ半分ほど残ったカフェオレのカップが地面に転がった。思わず立ち上がる。