画面の中の恋人-11
翌日の早朝、携帯電話のランプが点滅しているのに気がついた。メッセージ受信のお知らせ。飛び起きてパソコンを立ち上げ、メッセージ画面にアクセスする。新着メッセージは1件、名無男から。
『ミコさんへ
おはようございます。昨日のメッセージを受け取ってから、僕はずっと眠れずにいました。ああ、もう敬語はやめようということでしたね、気をつけます。でも、急には難しいですね(笑)
ご主人との関係で悩んでいることは、ブログからわかっていました。僕も……複雑な事情があって詳しくは書けないのですが……妻との間にトラブルを抱えていて、ミコさんと同じように、もう修復は無理かもしれないと思っている。
女性の方からあんなことを書かせてしまって申し訳ない。僕の方から言うべきだった。僕もミコさんをひとりの女性として大切に思っています。妻がいながら、不誠実だと思われそうですね。
あなたさえ良ければ、僕は画面の中の恋人、ということでどうだろう。この画面の中では、僕にたくさん甘えてくれていい。僕はあなたの支えになりたいと思う。
返事は急ぎません。 名無男』
そのメッセージを読みながら、乃理子の胸は高鳴った。画面の中の恋人、だって……。ずいぶんと久しぶりの、甘く切ない感情がしっとりと広がっていく。甘えてくれていい、という一言には涙が滲んだ。
『名無男さま
いま、メッセージを読みました。文字だけでどこまで伝わるかわからないけれど、あなたの言葉を震えるような思いで読みました。不誠実なのは、わたしのほうです。お互いに結婚していて、支え合うべき相手がいることを知っているのに、こんなにも名無男さんのメッセージを嬉しく思ってしまうから。
わたしも、あなたの画面の中の恋人になりたい。 ミコより』
他人には恥ずかしくて絶対に見せられない文面。読み返す前に送信する。また、5分とたたないうちに返事が来て、そのまま何通もメッセージを交換し続けた。その中に並ぶ言葉は、これまでのものよりもずっと親密で、愛情に満ちたものに感じられた。
お昼を過ぎるまでメッセージのやり取りを続けた後、名無男が出かけるというのでそこでやりとりは小休止となった。恋人同士の雰囲気を盛り上げてくれるためか、これまでの彼には見られなかった言葉……『ずっと可愛らしいひとだと思っていた』『こんなに素敵なひとをきちんと愛さないご主人が信じられない』という蕩けそうになる言葉……を名無男はたくさんくれた。
乃理子はもらったメッセージを何度も何度も開いては、食事も摂らずにそこに書かれた言葉たちを眺めていた。