伏兵は女王様 <後篇>-5
「わかってるんだろ? 俺の気持ち………… わかってて気づいてないフリしてるんだろ?」
「…………え?」
「だって俺………… ずっと…… ずっと前から俺…… 夏樹姉ちゃんの事…………」
悲痛なまでの隆の叫び。
いかに私が鈍感だとは言え、その言葉の先くらいはさすがに予想がついた。
(うそ? ひょっとして隆が好きだった女の子って…………)
気づいてなかったわけじゃない。
けれどそれは、どこかそうであって欲しいという私の願望だと信じて疑わなかった。
だって近すぎるんだもん、近すぎて盲目になるのが恐くて、
邪な感情を抱いてしまったらそれこそ消えて無くなりそうで…………
私はようやく隆の気持ちを理解するも、
けれど同時に失う事の怖さに怯え、
「ま、待って………… その先は、その…… まだ言わないで欲しいの?」
気がつくと私は隆の言葉を制止していた。
「どうして!? 俺は本気でっ…………」
「わ、わかってる! ちゃんとわかってるから…… で、でもっ…………」
いつも元気で明るい性格とは裏腹に、
こと恋愛に関してはネガティブな考えしか出てこない私。
それは両親が早くに離婚した事に起因するのかもしれないけれど、
こんな状況でまで足踏みする私は臆病を通り越して卑怯にも思える。
「……………………ごめん」
「……え?」
「ごめん…… 俺…… 別に夏樹姉ちゃんを困らせるつもりじゃなかったんだ…………」
苦しいほどにきつく握りしめていた隆の両腕から力が抜けたかと思うと、
耳元で切なそうな溜息がひとつ聞こえる。
「俺…… 勝手に焦っちゃって………… 夏樹姉ちゃんの気持ちも考えずに……」
そう言って力無く両腕を垂らしては、
私の身体を引き離そうとする隆。
「やだっ…… ち、違うのっ! 違うんだってば!!!」
私は思わず大きな声でそう反論すると、
今にも離れてしまいそうな隆の身体を必死で抱き寄せては、
両手で力の限りその大きな背中を抱きしめ返した。