兄妹以上、恋人未満-7
「……ミカ?」
急に声をかけられて、心臓が跳ねあがった。
「いやっ!」
反射的に両手で体を隠し、おそるおそる振り返るとケン兄ちゃんがびっくりした顔でわたしを見ていた。
「こ、これは、あの……ごめんなさい……見ないで、お願い」
恥ずかしさと後ろめたさで、何を言ってるのかわからなくなった。背中を向けたまま震えていると、パタンとドアが閉じられる音がして、暗い部屋の中にケン兄ちゃんが入ってきた。ふっ、と軽いため息が聞こえて、わたしの頭に大きな手がポンとのせられた。
「あ、あの……」
「落ちつけよ、誰にも言わない。マサルは俺の家にいる。対戦用のゲームソフト、まだ部屋にあるから遊ぶなら取って来て欲しいって言われてさ。びっくりさせたろ? ごめんな」
「うん……わたし、わたし……」
その言葉と温かい手のひらが優しすぎて、自分がとんでもなく汚らしいもののように思えた。涙がぼろぼろ出てきて止まらなくなった。
「おい、泣くなよ。どうしたんだよ……」
「わからないの、もう、どうしていいかわからないの……」
わたしはケン兄ちゃんの広い胸にしがみついて泣いた。中学校からずっと野球部で鍛えてきた筋肉質な腕が、しっかりと背中を支えてくれる。わんわん泣きながら、自分の体の症状に悩まされてきたこと、弟の部屋のDVDを見て自分の体を触ったらすごくすっきりしたこと、それから……いま、この部屋でしていたことも。
ケン兄ちゃんの手がわたしの背中を上から下までゆっくりと撫でる。腰のくぼみのあたりに触れられたとき、ぴくんと体が反応して震えてしまった。ケン兄ちゃんはそれに気がつかないみたいに、ごく普通に話し続けた。
「そうかぁ、ミカも大人になったんだなあ。いまは? ちょっとすっきりした?」
「それが……さっきはすごくすっきりしたのに……」
そう、2度目はうまくいかなかった。触り方が悪かったのか、あともう少しでもっと気持ち良くなれそうなのに、うまくその感覚がつかめないままだった。だから、あのイライラする重だるいような感じが、下半身の奥深いところからじわじわと全身に広がっている。
「学校でも、友達と一緒にいても、もう全然だめなの。集中できないの。お医者さんに言った方がいいのかな、どうなっちゃうんだろう、わたし……」
「だから、泣くなって。今日はもう遅いし、マサルが待ってるから帰るよ。明日……そうだな、昼過ぎくらいに俺の家に来れるか? そしたらもっとゆっくり話を聞いてやれるから」
「うん……ありがとう、ケン兄ちゃん」
「ゆっくり寝ろよ。ほら、そっち見ないようにしてるから、いまのうちに部屋に戻れ」
自分が全裸だということを思い出し、急に恥ずかしくなったわたしは、くるりと背を向けたケン兄ちゃんの声にせきたてられるようにして自分の部屋へ駆け込んだ。