ハニービー-9
俺の計画は、そもそもハナやダイブツさんなど関係なしに破綻していた。
俺はたっぷり5分は固まってしまい、ハナはその間にお茶を汲んで、どこから探し当てたのか勝手にお茶菓子まで用意して食べていた。
料金を払って経験をするというのは、いささか安易な考えだったのかもしれない。
どこかで、なあなあの方向に走ってしまい、袋小路にハマる傾向が俺にはあった。
結局、今回もそういう気がする。
思えば、彼女に対しても、どこかなあなあで真剣さに欠けていたのかもしれない。
頭で思い描いていたようにいかないのは、誰かが与えたいい加減な俺への罰なのか。
いや、自業自得というべきか。
「あのさぁ、そんなに落ち込まないでよ。何かわたしが悪いことしたみたいじゃない」
「あ、いや、済まなかったな。俺、いつもどこかでツメが甘い所あってさ」
「わたしも、最後までアリだったら、この仕事してないと思うわ」
「へぇ、何かこの仕事をする理由が?」
俺は言ってしまってから、あっと思った。
そういう事は、いちいち聞くべきではないのである。
話の流れでつい自然に聞いてしまった。結局、俺も気の利かないオヤジ共と一緒だった。
だが、ハナは気にする風でもなく、話し始めた。
「わたし、付き合ってた人がいてさ、一年くらいだけど、突然別れ話を切りだされてさ」
「へぇ……」
なんと、俺と同じではないか。
内心驚いていたが、平静を装い、俺はハナの話を聴き続けた。
「その理由が全然わかんなくて、何故なんだろうってずっと考え続けたわ。結局わからないままで。じゃあ、男の事を知れるような仕事をしようと思ったの。ま、理由は他にもあるけどね。」
「そうか。それで、何か男の事って分かったの?」
「そうね。例外なく、スケベばかりだったってことかな」
「…………」
それは、そうだろう。だって、その部分を解消する仕事なのだから。
彼女からは、何か俺と正反対のものを感じた。
俺はなあなあだが、彼女は一直線過ぎるような気がする。
「あなたも、そんなにエッチがしたいの?」
「俺は……その、セックスの経験がなくてさ」
「え?」
「それで女に対して積極的にいけない気がしたから、経験してしまおうと思ってたんだ。まぁ、勘違いしてたんだけどさ」
「へぇ……そうだったの。じゃあ、別れた彼女っていうのは」
「一年くらい付き合ってたけど、何もなかったんだ。肉体的にはね」
「ふぅん……」
ハナはちゃぶ台に肘をついて、何を言うでもなく視線を彷徨わせている。
俺も、それ以上言うことはなくなってしまって、少し気まずい空気が流れた。
その気まずさをかき消すように、ハナがボソリと呟いた。
「……してみる?」
「えっ?」
「もう、何度も言わせるんじゃないわよ……その、わたしでいいなら――してみる?」
この時、一瞬また、なあなあの台詞が俺の頭に浮かんだ。
君が、いいというなら。
セックスは、仕事ではまずいんじゃないのか?
そんな、煮え切らない台詞である。
そういう自分とは、そろそろ決別したい。
「――よろしく、お願いします」