ハニービー-3
ハナは、玄関で立ち尽くす俺の背中をグイグイ押しやって、強引に部屋に入り込んだ。
彼女の言うように狭い部屋だが、汚くはないはずだ。
何故なら、今日の為に、相当念入りに掃除をしていたからである。
床はさんざんコロコロを転がし、風呂はピカピカに磨き上げ、布団は干してシーツも代えた。
相手は一応プロ(のはず)である。
そこまでする事もないのだろうが、俺はマナーだと思ったし、そう何回もこういう事を頼むつもりはない。
最初で最後。そう意気込んでの事だった。
それが、来たのは顔見知りである。
ハナは、居間のちゃぶ台の横に図々しくも座り込んでお茶を催促している。
俺は急須に茶の葉とお湯を入れ、律儀にもハナにお茶を出してやった。
「これ新茶? なかなか美味しいじゃない」
「落ち着いたかい? それで、落ち着いたらさ、申し訳ないけどちょっと交代っていうか……」
「無理よ。だって入室しちゃったし。ダイブツさん、それ見てもう帰っちゃったわ」
「いやいや、君が無理やり入ってきたんだろ……ダイブツさんって、あのおっかないおっさん?」
「そうよ。聞き分けの無いお客さんも、彼が少し話をしてくれるだけで、何故かコロッと素直になっちゃうの。それで、ダイブツさんって言うのよ」
「…………」
「あなた、あんまりこういうのってやんない人でしょう?」
「その通りだよ。もうお金返してくれよ、頼むから」
「ダイブツさんに言いに行くといいわ。丁寧に説明してくれるわよ」