ハニービー-12
しばらくするとハナは意識が戻ったのか、ハッと思い出したように起き上がり、衣服を取ると俺に見ないように命令して、そそくさと着替えを終えた。
俺も、服を着ないといけないような気がして、つられて着替えている。
「ハァ、やっちゃったぁ……あなた、どうしてくれるのよ」
「そんな事言われても……まぁ、責任は、とるよ」
俺がハナを正視してそう答えると、ハナは俺を攻撃しようとするのを止めて、むっと唸りそっぽを向いた。顔が少し赤くなっているような気がする。
「ああぁ……最後の最後で、こうなっちゃうなんてねぇ……」
「最後……って、もうこの仕事、やめちゃうの?」
「そうね。お金、結構貯まったし。彼の事も、踏ん切りがついた気がするから」
「お金貯めて……何をするつもりなの?」
「わたし、ちょっと勉強して会社つくろうとも思ってたの」
「会社? よくわからないけど、凄いな」
「お父さんを亡くしてから、組を解消して……ダイブツさんにこれ以上迷惑かけるのも悪いし」
「……組?」
ハナは小さい頃に母を亡くし、最近父も亡くしたらしい。
なんと彼女の父はその筋の組長だったようだが、小さな組で父親の死と同時に解消に至ったようだ。
借金を抱えていた父の負債はハナが受け継ぐことになり、組員の一人だったダイブツさんに面倒を見てもらっていたらしい。
ダイブツさんは、借金は自分が払うと言ったが、ハナはそれを断り自ら働いて返す事を選んだようだ。
この仕事をするのに、ダイブツさんはひどく難色を示したようで一悶着あったことも分かった。
なんだ、ダイブツさん、いい人だったんだな……。
もしかすると、最初の集金時にハナにとって危険そうな人物は排除していたのだろうか。
あと、ハナの彼氏が別れた理由もなんとなく推察出来た。
ハナの素性がそれとなく知れてしまったのではないか。
男心はあまり関係なくて、単にその男は厄介事を抱え込むことを恐れただけかもしれない。
だが、俺はその男とは、少し違うぞ。
「あなたと会うまでは、その辺のスケベ男をちぎっては投げちぎっては投げ、うまくいってたのよ」
「投げちゃ駄目だろ……で、俺はもう、君に会うことは出来ないのかな?」
「あなたからは特別料金を徴収しないといけないわ。どうせ今は手持ちがないでしょうし。所詮、世の中、金なのよ」
「特別料金ね……ちなみに、いくらくらいかな?」
「あなたのシケた給料ならそうね……ズバリ! 給料三年分!!!」
「……随分、安いな。じゃあ、これはいくらくらい?」
「え、ちょっと……! もう……うちは、キスもNGなのよ。でも、そうね、これは――」
俺は余計な事を言いそうなハナの唇を塞いで、彼女の細い体を抱きしめる。
溜息をつくと幸せが逃げるって、迷信だったな。
ダイブツさんがハナを迎えに来るまでの間、俺は彼女の小柄な体を強く抱きしめ続けた。
ミツバチが運ぶ花の蜜のような、そんな爽やかな甘い香りが漂っていた。
−完−