7-4
「ねえねえ、ケンジおじ。」真雪だった。
「な、なんだ?」
「夏輝を抱きしめてやってくれない?」
「えっ?」
「この子、お父さんに抱かれたこと、一度もないんだよ。」
「・・・・・。」
「あたし、お父ちゃんにぎゅって抱きしめられる夢を時々みるんです。写真でしか知らないけど。でも、ケンジさん、あたしの憧れの人だし、って言うか、なんか、あたしのお父ちゃんだったらいいな、ってずっと思ってて・・・・。」
ミカがキッチンからリビングに大きなサラダボールを持ってやって来た。「抱いてやりなよ、ケンジ。」
「夏輝ちゃんは、それで心が癒されるのかい?」
「はい。ケンジさん・・・。」
ケンジは微笑みながら立ち上がって言った。「おいで。」
夏輝も立ち上がった。そしてじっとして目を閉じた。ケンジはそっと背中に腕を回し、ゆっくりと力を込めて彼女の身体を抱きしめた。夏輝はケンジの広い胸に頬を当てた。生まれて初めて感じる温かさと安心感だった。彼女の閉じられた両目から涙がこぼれた。「お、お父ちゃん・・・・。」
すぐに夏輝は目を開け、顔を上げた。「ありがとうございました。やっとあたしの夢が叶いました。」そしてにっこりと笑った。ケンジも微笑みを返した。
「これであたしのお母ちゃんを抱いてくれたら最高だな。」夏輝がはしゃぎながら言った。「ケンジさん、お母ちゃんと知り合いなんでしょ?一度ベッドを共にしてやってもらえませんか?」
「ばっ!ばかなこと言うもんじゃない!そ、そんなことできるわけないじゃないか。」
「いい考えだね。」横からミカが言った。
「何だかすごい会話・・・・。」真雪と春菜が顔を見合わせた。
ミカが腰に手を当てて二階に向かって叫んだ。「龍、健太郎、それに修平!降りてこい。夕飯だぞー。」
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