7-3
二階の龍の部屋では、龍と健太郎、それに修平が加わってエロトークに花を咲かせていた。
「で?修平はめでたく夏輝と結ばれた、ってわけなんだな?」
「ケンジさんとミカさんのお陰だ。」
「しっかし、ケンジおじもミカさんもすごいことをやってくれたもんだ。」
「ホントにね。」龍も言った。
「でも龍、おまえそのシーンを撮ってたんだろ?何枚も、自慢のカメラで。」
「うん。いつか父さんと母さんのカラミを撮ってあげる、って約束してたこともあるしね。」
「非常識に変な家族。」健太郎が呆れて言った。
「で、ケンタ、おまえはなし崩しに春菜さんを抱いたわけだが、」
「なし崩しとは何だ!俺はちゃんと彼女に恋してる。」
「でも何だか急だったよね、展開が。」龍が言った。「どういうきっかけだったの?ケン兄。」
「あの子の眼だ。」
「眼?」
「あの眼鏡の奥の眼は、今まで俺が見てきたどんなヤツの眼とも違う。何て言うか、こう物事の神髄を見るって言うか、どこまでも深く追求していく、みたいな・・・。」
「へえ。そうなんだ。」
「彼女が手に鉛筆を持って、紙に向かった途端、文字通り眼の色が変わる。そうだなー、例えて言うなら頑固職人のようになる。」
「頑固職人?」
「すでに人を超える能力を持っているにも関わらず、それでは満足しないって言うか・・・。」
「自分に厳しい人なんだね。」龍が感心したように言った。
「龍も写真やってるからわかるだろ?」健太郎は続けた。「俺、スポーツ以外で、そういう厳しさを持ってる人がいるってことを、今まで信じてなかった。」
「と言うと?」
「なんかさ、芸術とか文化とかに打ち込むのってただの道楽じゃん、ってちょっと見下してたとこがあった。」
「そうなのか?」
「うちの家族みんな水泳オタクだしな。他の世界を今まで知らなかった、ってことさ。」
「いい子と巡り会ったな。ケンタ。」
「うん。俺もそう思う。チョコレート職人を目指す以上、少なくとも俺には必要な人だ。」
「で、龍、」修平は龍に目を向けた。
「何?修平さん。」
「おまえの彼女は真雪で、すでに深い仲なんだろ?」
「ケン兄がバラしたんだな?」龍は健太郎を睨み付けた。
「いや、ケンタが教えてくれなくても、わかるっつーの。」
「なんで?」
「あのポスターは何だ?」修平が壁の一番大きな額に収められた写真を指さした。「これは?」違う場所に貼ってあるのは真雪が馬に乗っている写真。「こっちにも。」草原で麦わら帽子をかぶった真雪。
「おまえの部屋、真雪まみれじゃねえか。」
「そ、それは・・・・。」
「それに、スイミングスクールではお前、真雪の手は握るわ、肩に手を置くわ、しまいにゃ背中から脇に腕回して抱き寄せたりしてたじゃねえか。あれでいとこ同士です、って開き直るつもりか?まったく、見せつけやがって、このやろっ。」
「そ、そんなことしてたっけ?」龍は赤くなって少しうつむきながら言った。
「いいじゃないか。別に隠すことでもないし。」健太郎が龍の頭を乱暴に撫でた。
「で、どうなんだ?」
「どうって?」
「真雪、抱いてて気持ちいいか?」
「そ、そりゃあもう。特に彼女のおっぱいは最高。ずっと顔を埋めていたくなるよ。」
「お子ちゃまめ。ま、あいつ巨乳だしな。俺もあいつの彼氏だったら埋めたくもなる。」修平がにやにやしながら言った。
「そういう修平さんは夏輝さんのどこが好きなの?」
「性格か?それともカラダか?」
「んー、どっちも聞かせて。」
「性格はな、俺に似て突っ走り易いし、すぐキレる。でもすぐに甘えてくる。」
「いわゆる『ツンデレ』ってやつだね。で、カラダは?」
「俺、あいつの脚が大好きでな。いつまでもしがみついていたくなる。」
「おまえはコアラかっ!」健太郎が言った。
「だけどあのやろ、デートの時は必ずミニスカート穿いてくっから、俺いつもムラムラしてんだ。」
「じゃあ、ケン兄はどうなの?春菜さんのどこが好き?」
「性格についちゃさっき聞いたから、身体な、カラダ。」修平が念を押した。
「俺は、あの眼鏡だな。」
「え?眼鏡?」
「なんだよ、それ。」
「春菜さんの眼鏡を掛けた顔をじっと見てると、むちゃくちゃ興奮する。不思議だろ?」
「理解できねえ。」
「なんでだよ。」
「だって、おまえ、眼鏡に顔埋めたりしがみついたりできねえじゃねえか。」
「いや、眼鏡に興奮しているわけじゃなくて、眼鏡を掛けた顔に興奮してるんだよ。」
「そうやって我慢できなくなったらどういう行動に出るの?」龍が訊いた。
「キスするしかないだろ。」
「そ・・・・そうか、そう来たか。」龍が一本取られたという顔をしてつぶやいた。
「ううむ・・・。結局ケンタの行動が一番マトモだってことに落ち着いちまったか・・・。何か悔しいな。」