7-2
10月。すっかり涼しくなり、夜になれば集(すだ)く虫の音が聞かれるようになっていた。海棠家のリビング。真雪と夏輝、それに春菜が話に花を咲かせていた。
「すみません、ミカさん、夕飯までごちそうになっちゃって。」
「気にすんな。」ミカがキッチンから言った。「あ、それから栗、こんなにありがとうな。」
「それ、うちのアパートの裏の栗の木のなんです。修平と一緒に拾いました。」
「そう。それは仲のいいこって。」ミカは鼻歌交じりにフライパンに蓋をした。「そうそう、もうすぐ警察官の一次試験なんだろ?夏輝、がんばりなさいよ。」
「はい。がんばります。」夏輝が威勢よく言った。
真雪が夏輝に訊いた。「夏輝、しゅうちゃんはちゃんと優しくしてくれてる?」
「だいぶ上手になったよ。あたしをいつもいい気持ちにさせてくれる。」
「良かったね。」春菜が言った。
「春菜はどうなの?ケン兄、ちゃんと尽くしてくれてる?」
春菜は少し赤くなって言った。「あんなに優しい人、私ほかに知らない。もう、私を宝物みたいに扱ってくれるよ、いつも。」
「ケンちゃんなら大丈夫だ、って言ったでしょ。あたしの目には狂いはない。」夏輝は笑った。
「で、でも・・・・」春菜が恐る恐る言った。「健太郎君って、もともとあなたのことが好きだったんでしょ?夏輝。」
「そうらしいね。でもあたし、彼とつき合わなくて良かった。」
「どうして?」真雪が訊いた。
「恋人同士にはなれないよ、あたしとケンちゃん。たぶん性格的に合わない。というか、ケンちゃんがイヤになる。あたしじゃ。」
「そうかなあ・・・。」
「見てわかるでしょ?あんなに優しい人にはこんながさつな娘は合わない。修平で丁度いいって、あたしにはさ。あっはっは!」
「自分で言ってりゃ世話ないね。」真雪が言った。「それに、しゅうちゃんもえらいな言われよう。」
「友だち同士の方が気楽でいいよ。あたし友だちとしてならケンちゃんは大好きだよ。」
春菜は少し安心したようにため息をついた。
「それはそうと、」春菜が急に真雪に目を向け直した。
「な、なに?」真雪はそのきらきらした春菜の眼に少し動揺した。
「真雪の彼って、誰なの。」
「え?えっと・・・・・。」
「龍くんだよ。」夏輝がいたずらっぽく笑って言った。
「えっ?!龍くん?上にいるあの龍くん?」春菜が驚いて言った。
「そうだよ。驚いた?」
「も、もう、夏輝ったら・・・。」真雪は赤くなった。
「あたしたちがスクールでエッチの練習した晩、スタッフルームでね、真雪と龍くんの頻繁なアイコンタクトがもう、見てらんないぐらいだったよ。」
「そんなに見つめ合ってたの?」春菜が訊いた。
「そりゃあもう、熱い視線の応酬だったね。ほとんどレーザービーム。」
「そうなんだー。」
「でさ、中二の彼が、あんたを抱く時って、どんななの?」
「え?ど、どんな・・・って?」
「やっぱり年下だから、甘えてくるわけ?あんたに。」
「え、えっと・・・・。」
「もうバレたんだから、包み隠さず言いなさいよっ。」
「私も聞きたい。興味ある。」春菜も言った。
「彼、あたしのおっぱいが特に好きなんだ。」
「そうか、おっぱいねー。あんた爆乳だもんね。でも龍くん、年下らしくていいね。」
「何度もあたしの胸に顔を埋めるの。」
「可愛い!」春菜が言った。
「しゅうちゃんは?」
「修平はあたしの脚フェチだよ。」
「確かにあんたの脚は長くてきれい。」
「一緒にいる時は、いっつも必ずじろじろ見るから、あたしの方が恥ずかしくって・・・。」
「しゅうちゃん自分に正直だからね。」
夏輝と真雪が同時に春菜に目を向けた。「で、ケンちゃんは?春菜。」
「健太郎君はあたしの眼鏡顔が好きなんだって言ってた。」
「じゃあ、コトの最中も、あんた眼鏡つけたままなんだ。」
「うん・・・。」
「オトコってば、いろんな拘りがあるもんだね。」夏輝が笑った。
風呂上がりのケンジがそこを通りかかった。「何の話で盛り上がっているのかな?お嬢さん方。」
「ケンジさんは、ミカさんの何フェチなんですか?」夏輝が言った。
「えっ?!フェチ?」
「彼女のどこに一番興奮するの?ケンジおじ。」真雪も訊いた。
「お、おまえら、そんな話で盛り上がってたのか。」
「ケンジはねー。」キッチンから声がした。「唇フェチなんだよ。」
「こ、こらっ!」ケンジが慌てた。
「最初から最後まで、何度もキスしたがるんだ。」
「素敵!」
「あたしも修平のキスは大好き。」
「あたしも。龍の唇柔らかくて大好き。」
「健太郎君も、とっても上手だよ。」
「オンナはみんなそんなもんさ。でもキス一つでめろめろになれるなんて、あんたたち幸せだね。」
「な、なんという話題・・・。俺、ついていけない・・。」ケンジが言った。