『The girl&boyU【in girls dream】』-3
何も考える余裕は無かった、走ること以外は全く思い付かなかった。
何のためにということも無く、意識せずとも呼吸をし、放っておいても代謝を繰り返す。
それらと同じように、ただひたすら走り続けた。
ようやく家に辿り着いて、ばん、と玄関の戸を開けた。
沈黙の白い世界に、乾いた音がぶんぶんと響いて。
そこに、男の姿を探していた。
彼の名を呼ぶ自分の声で、そのことに気が付いた。
それは、ずいぶんと呼び慣れた名だったのだと、今になってようやく知った。
どれだけの時間、どのくらいの距離を疾走して来たのか。
走っている間は何も感じなかったのに、今は骨の芯がぐらぐらと揺れた。
脆い、膝ががくがくと震える、世界が揺れ、霞み、波立っていた。
頭が割れるように痛い。
訳も無く、涙が滲んだ、不安で怖くて、腹が立っていた。
多分、これが悲しみという感情だった。
ふと、よろめく体を支えるために、テーブルの淵に手を付こうとして。
自分が何かを握り締めていたことに気が付いた。