6-5
「どうだった?ミカさん。」
スタッフルームに戻ってきたミカに真雪が言った。
「とってもいい雰囲気だったよ。あたしがチラ見した時は、もう終わった後のクールダウンの段階だったけどね。」
「そうか。どうやらうまくいったみたいだな。」ケンジが満足そうに言った。
「プリントできたよ。」龍が振り向いた。手にはLサイズの写真数枚が握られていた。
「お、できたか、どれどれ。」ミカがそれを受け取って一枚ずつ見始めた。「へえ、なかなかじゃん。さすが龍。」
「龍もこっちに座りなよ。」真雪が言った。「新製品のチョコ、食べてみて。」
「うん。」龍はパソコンをシャットダウンして椅子から立ち上がり、ミカたちの囲んでいる丸いテーブルの真雪の横に腰掛けた。
「ほら、ケンジ、見てみなよ。きれいだよ、とっても。」ミカが言った。
「な、何だか恥ずかしいな・・・。」
「いやいや、なかなかだって。」ミカが無理矢理ケンジにその写真を手渡した。
ケンジは赤面しながらそれを見た。「や、やっぱり恥ずかしいよ・・。」
「あたしも見たい。ケンジおじ、見せてよ。」
「え?み、見るのか?」
「いいじゃない。」ミカが微笑みながら言った。
その数枚の写真を受け取った真雪は、一枚ずつ丁寧にそれを見た。「ほんと、きれいだね。大人の雰囲気全開。あたしたちのセックスでは絶対に出せない雰囲気だよね、龍。」
「真雪もさらっと大胆なこと言うよなー。」チョコレートに手を伸ばしながら龍が言った。
コンコン・・・。その時、ドアがノックされた。「どうぞー。」ミカが言った。真雪は持っていた写真の束をミカに返した。
修平と夏輝が赤い顔をして、恐る恐るドアを開け、中に入ってきた。
「あれ?真雪?」
「それに龍くんも。」
「こんばんは。」龍が笑って手を振った。
「なんで二人がここに?」
「まあ、お座り。二人とも。」ミカが修平と夏輝に椅子を勧めた。
「どう?うまくいった?」
「はい。何とか。」
「いろいろ失敗や戸惑いも山ほどありましたが、結果オーライということで・・。」
「なんだ、それ?」ケンジが言った。
「お二人のお陰でやっと俺たちもまともなエ、エッチ・・・!」修平が向かいの椅子に座っている龍に気づいて口を押さえた。「やばっ!」
「どうしたの?」
「え?こ、こんなこと、中学生の龍の前では・・・・。」
「大丈夫。龍には免疫がある。」ミカが言った。
「免疫?」
「詳しくは話せないけどね。」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんです。」龍がチョコレートを口に入れながら言った。
「で、でも、真雪が・・・。」
「ああ、真雪にも免疫があるから大丈夫。気にしないで。」コーヒーカップを片手に笑いながらミカが言った。
「やっぱり?」夏輝が真雪に顔を向けた。
「もう、ここだけの話にしといて。誰にも言わないでね。」真雪は小声でそう言って、両手を合わせて夏輝を拝んだ。
「でも、無事に問題なくできたんなら、良かったじゃない。」ミカが二人に向き直った。
「はい。お陰様で。」
「あたしたち、今まで何が悪かったんでしょうか?」夏輝がミカに訊いた。
「単なる経験不足でしょ。」
「そ、そうですかね・・・。」修平が言った。
「あなたたち、って言うか、特に修平は、今までエッチの時自分が興奮して出すことだけを考えてたんじゃない?」
「え?」
「オトコってのは、」ケンジが口を開いた。「一人でも簡単にイけるし、女のコの裸を目の前にすれば興奮する。そして早く出したい、って思う動物だ。そうだろ?」
「確かにそうです。」
「今夜、修平君がこれまでと違っていたことがあったとしたら、」ケンジが微笑みながら続けた。「好きな夏輝さんをどうしたら気持ち良くすることができるか、って考えてたこと。」
「あたしたちの行為を見て、いろんなテクニックを使うことが、結果的に夏輝を満足させたってことだったわけだ。でも、」ミカが言葉を切って修平に身を乗り出した。「それは修平が夏輝を好きじゃなきゃできなかったこと。だから、夏輝は精神的にも満足できた。」
「そうなのか?夏輝。」修平が夏輝に顔を向けた。
「うん。満ち足りた。」
「夏輝が満足すれば、当然修平も満足するでしょ?身体だけじゃなく、気持ちも。」
「そ、そうですね。」
「セックスなんて、やり方が決まってるわけじゃくて、二人がお互いを好きなら、好きなようにすればいいんだよ。必要なのはお互いがお互いを『好きだ』っていう気持ちだけ。極論すればそうなるね。」ミカはコーヒーをすすった。